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僕の劣情など仁紀さんには簡単に見破られた。くるりと身体を返されると、壁に手をつく恰好になる。
「こっちは」
仁紀さんの熱い息が、僕の首筋にかかる。突き出すようにした僕の下半身が割り広げられ、恥ずかしい部分が露わになった。
「オレ以外のヤツと」
そんなの、
「仁紀さんしか、いな……ん、っ」
指で中を探るように嬲られた。自分でしか触れる事のなかったその部分は、苦しさと喜びが混じり、きゅううと勝手に仁紀さんの指を締めつける。
「本当?こんなに奥まで入るけど」
「一人で、しても……前だけじゃ、いけなくて。後ろ、……自分で」
僕の顔の横で、仁紀さんが大きく息を吐いた。
カチャカチャ、とベルトを外す音がしたと思うと、欲しいと求めていたものが当てがわれた。熱くて硬くて、きっと仁紀さんも僕を欲しがってくれている。
なのに、焦らすばかりで挿れてはくれない。
「ハル、欲しいって言って」
苦し気な声だ。僕が欲しがらないと、挿れてはくれない。僕から始めないと仁紀さんも僕も、いつまで経っても苦しいままだ。
「……仁紀さんの、欲し……っ」
瞬間、僕の身体に熱い楔が打ち込まれた。
「んんっっ!!」
声にならない声が、喉の奥から吐き出される。
ああ、覚えている。仁紀さんの形。僕の身体は、何年経ってもその熱を覚えていた。僕が辛くないように、優しく。でも強い抽挿は、あの頃と何ひとつ変わらなかった。
「あ、あ、仁紀さん、」
「……ハル、オレ今、お前の中にいるよ」
「う、ん……っ、分か、る」
仁紀さんは今、強く僕を求めてる。僕も仁紀さんのことを、誰よりも欲してる。
僕達はお互いの存在をただひたすら確かめ合った。
「ハル、立てるか? ほら、掴まれ」
「ん、」
足腰のふらついた僕は風呂場に連れていかれ、仁紀さんにもたれ掛かって身体を洗ってもらう。
「悪い、久しぶりだからってがっつき過ぎた」
「昔ほど若くはないからね、お互い」
「自重する」
仁紀さんに身体を預けたままシャワーを掛けてもらうと、温かくて気持ちが良い。
シャワーの流れに紛れて、涙が流れていく。多分それに気付いた仁紀さんは、黙って泡を洗い流してくれていた。
「ハルは、なんでオレに彼女がいるなんて思ったの?」
ベッドの中で仁紀さんは僕に聞いた。シングルベッドでぎゅうぎゅうになる不自由さが、夢みたいに幸せだ。
僕は、勘違いの始まりとなった一件を思い返す。確かに早とちりもいいところだった。
「……スマホの、」
「ん?」
「スマホの着信音が可愛くて、きっと奥さんとか彼女とかだろうなって」
「着信音?……ああ、あれな」
仁紀さんはクスッと笑った。
「オレ、往診行くだろ?患者はたいがいお年寄りか子供なんだけど。小さい子供が泣くんだよ、着信音が怖いと。ただでさえ歯医者は嫌われてるからさ、」
と、以前小さい子に大泣きされて診察にならなかった話をしてくれた。二、三歳ともなると、往診カバンからいろいろ出して悪戯しようとしたり、勝手にスマホをいじろうとしたりで大変なんだ、と仁紀さんは苦笑した。
あの頼りになる仁紀さんが子供相手にあたふたしている様子を想像して、微笑ましい気持ちになる。
「大学で習ったことなんて大したことなくてさ。実際にやってみる方がよっぽど難しいよ」
親の決めたレール、って決めつけてたオレの方がレールに拘り過ぎてたんだ。仁紀さんは、穏やかな口調で言った。
「なんか、お互い遠回りしちゃったんだね」
「そうだな。でも会えたんだからそれでいいんだよ、きっと」
そうだね。それで、いいんだ。
「なあハル、オレの誕生日もうすぐなの、覚えてる?」
「覚えてるよ」
「誕生日プレゼント、あのキーホルダーが欲しい。もう一度オレにくれないか」
仁紀さんはそう言うと、僕の両頬を手で包み、額に自分の額を当てた。
「うん」
額から伝わる想いに、僕は精一杯の愛を込めて、答えた。
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