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すっかり熟睡していた。日曜日で良かった。
いつもは足先が冷えて、明け方には目が覚めてしまうのに、今朝はぽかぽかとしてとても寝心地が良くて……。ああそうか。昨晩仁紀さんがうちに来てくれて……。
ぼんやりと浮遊している意識を引き戻す。
「おはよ」
いつもは一人の筈の布団の中で、半分身体を重ねるようにもう一人。
「お、おはよ……」
昨夜そのまま仁紀さんは僕の家に泊まった。久しぶりに一緒に迎える朝だった。カーテンの隙間から射す柔らかい日差しに、さまざまな感情が浮かび上がる。
「ハル、喉乾いてない?」
「大丈夫」
なんだか恥ずかしくなってきた。照れ隠しにもぞもぞと布団にもぐると、布団ごと仁紀さんの腕の中に引き込まれた。
「ハル、出ておいで」
余計に出れるわけないだろ。ああ顔が熱い。初めての時みたいにドキドキしている。
「おまえって恥ずかしいと隠れるよな」
「……言うな」
「出てこい」
「……やだ」
じゃあこうするぞ。僕が奪っていた布団を引き剥がし、仁紀さんが僕の身体にのしかかってきた。
「六年分?あ、七年分か。早く取り戻さなきゃな」
「……ちょっ、あ、れ、がっつき過ぎたって、自分で言ってた、じゃん」
「あー。あれは毎回リセットされるようになってるんだよ」
「そういうシステムなの?」
「そうなの」
仁紀さんはニヤッと笑うと、僕の耳たぶをやわやわと噛んだり舐めたりし始めた。
「んっ」
「ハル、感じちゃう?」
意地悪く仁紀さんは聞く。そのまま首筋をツッと舌先でなぞられたら、あっという間に僕は何も言えなくなった。
「仁紀さん、ズルい……っ」
今まで足りてなかった仁紀さんの成分を吸収したいという欲求が溢れる。
「ハル」
「もう……いい、から、早く」
僕が途切れる息の中でそう囁くと、仁紀さんは目を細めた。
「それ、最高だな」
何度もキスをしながら、僕達は布団の中に消えた。長い空白の時を埋めるために。
「仁紀さんこそさ、誰かと付き合ったりしなかったの」
うつ伏せのままペットボトルの麦茶を受け取る。僕の知らない時間に仁紀さんが何を思って過ごして来たのかを少しでも知っておきたい。
「誰も好きになれなかった。一応合コンとか顔出してみたりしたけどな、ダメだった」
(忘れたいものほど、忘れられないんだな)
(そうだね)
僕達は離れていても同じことを思っていたんだ。なんだ、と笑いが込み上げる。
どうした?と仁紀さんは訝しげに聞くけど、僕は何でもない、と言って一人でクスクス笑い続けた。
遠回りしたからこそ強く結び合えるんだと思える今の自分は、昔の自分よりずっと自分らしいのかもしれない。
千尋さん、というのは、仁紀さんの三歳下の妹さんだそうだ。旦那さんになる人は仁紀さんの歯学部の後輩で、仁紀さんの家に遊びに来た時、千尋さんに一目惚れしたらしい。
「オレがキューピッドなわけ」
「なるほど」
ブライダルコーディネーターをしている山崎さんの奥さんは千尋さんのことを昔から可愛がっていて、千尋さんの結婚式をとても楽しみにしているらしい。
昨晩山崎さんが奥さんの実家に向かったところを見ると、週明けにもめでたい報告が聞けるな、と仁紀さんは楽しそうに言った。
「山崎が戻って来たら、さっそくイジってやらないとな」
「素直じゃないね、仁紀さん」
「山崎をイジるのが高校からの習慣なんだよ」
「ひどいなあ」
誰かの幸せが心地良いのは、僕も今幸せだからだ。
僕は今なら出来ると思った。
今度こそ、僕が仁紀さんを幸せにする。
もう迷わない。
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