二章

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 この街に来て、季節が一回り過ぎようとしていた。  市役所の相談窓口には頻繁に予約が入るようになったため、市外から応援に来てくれる事になった他の事務所と、曜日を決めて担当している。  初めてこの地域に来る人も中にはいて、街の情報を教えてあげるととても喜ばれる。そうそう。僕も最初の頃は、山崎さんはじめ街の人達にいろいろな事を教わったものだ。  初々しさの目立つインターンの学生達も一生懸命働いていて、デスクの周りは随分と賑やかになった。 「臼井さんがうちの市役所の評判を上げてくれたお陰ですよ。ずっと上げてた申請がやっと通ったんです!」  今までは人材不足と街の過疎化のせいで、新戦力が増えずに大変だったと山崎さんは言う。  だけど、そう言う山崎さんこそ中央と掛け合ったり広報活動をしたりと、この街のために一生懸命なのは、誰もが知っている。  育休を申請したのも山崎さんが初めてだ。奥さんと二人三脚で頑張る姿、この街に芽吹いた新しい命を、街のみんなが応援しているんだ。  スケジュールを報告がてら、上司と事務所開設の打ち合わせをする。年内にこっちで働ける人材を採用できたそうだ。  僕の方でも事務所として使うマンションの一室を賃貸契約出来たことを報告した。この街で撒いてきた種が花開くと思うと嬉しくて、早く仁紀さんにも報告したい気持ちでいっぱいだ。  夜、往診終わりの仁紀さんと待ち合わせをして、夜ご飯を食べに行く事になった。  料理が出揃ったところで、今日決まった事を報告しようと口を開きかけた時、仁紀さんの方から、話があるんだと切り出された。 「話?仕事に関係あること?」 「あるっちゃあるかなぁ……」  そこで仁紀さんは少し言い淀んだ。何か言いにくいことでもあったのだろうか。少しして、言葉を選びながら仁紀さんが続けた。 「前に開業したいって言った事あったろ?」 ──今日、連絡が来たんだ。 「何の?」 「実は前々から地方の離島プロジェクトっていうのに応募しててさ」 「離島プロジェクト?」 「そう。医療関係者から希望者を募って、過疎の地域や離島に派遣するっていう計画なんだけど、オレも派遣チームのひとつに参加できることになったんだ」 「それはすごいよ!おめでとう!……でもここの病院はどうするの?」 「妹の旦那が継いでくれることになった。オレは……跡継ぎとか考えた事ないし」 「あ……」 「いや。ハルに会っても会ってなくても、元々そういうつもりだったんだ。昔からな。そのつもりでいるのはオヤジも承知してる」 「……そっか」 「ここもまぁ不便な街だけど、もっとオレが必要とされる場所があるんじゃないかって、ずっと考えてて」 「うん、」 「何度もオヤジと話し合ってさ。聞いたら昔オヤジにも同じような夢があったらしくて、オレの夢を応援してくれてる」 「そっかぁ、良かったね!」 「で、さ。派遣先なんだけど──」
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