春雷・春風

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春雷・春風

「はぁ~昨日の雷雨信じられない位晴れた~」 僕は、そう呟きながら空を見た 昨日は、春の訪れを感じさせる雷雨 春雷が響いた たった半日しか経ってないのに 抜けるような青空が広がる 「葉山さん、すみません」 シャッターが半開きの店舗から副店長の七五三(しめ)さんが声をかけてきた ここは、都内駅ビルの路面店 今日急遽ヘルプに来た 店長の御子神(みこがみ)さんは 奥さんの急な陣痛の為お休み パートさんは、元々ご両親の病院予約日でお休み取っていて 他の人の休日を考えると人が足りなかった 菅野は、打ち合わせがあるし 今日は、僕がピンチヒッター ここは下町にも近いし ここから歩ける大きな規模の霊園もあるし 午前中が混むんだよね 「七五三(しめ)副店長、今日は僕 人一倍働きますからね いっぱい指示してくださいね」 腕まくりをしながらガッツポーズを取った 「フフ、葉山さんありがとうございます なんか…可愛いですね」 「え?可愛いですか?」 「はい、何て言うんだろう… 私には無いものお持ちだからかな ずっと愛でていたくなりますね」 頬骨が丸く浮き出してる 「そうですか? 七五三副店長の笑顔も可愛いですよ?」 「え!?またまたまた~ 何にも出ませんよ?」 僕たちは、顔を見合わせて笑った 「七五三副(しめふく)~電話で~す 花祭りの件みたいですよ~」 中から金髪のアルバイトの子から呼ばれて足早に中に入った 「ちょっと~凜ちゃん シメフクやめてよ~ シメサバかお多福みたいだからさ~」 「え~だって七五三副店長だもん 縮めたら七五三副じゃん!ねぇ葉山さん」 にこやかに僕に話を振ってきた 「…あの~ つかぬ事をお伺いします。 花まつりって…お釈迦様のお誕生日でしたっけ?亡くなった日でしたっけ?」 副店長の話じゃなくて花まつりの電話を聞いてみた 「お誕生日ですよ~葉山さん、よくご存知ですね」 「あ、お誕生日でしたか この店舗は、やっぱりお寺さんからの依頼が多い?」 「はい、仏花がやっぱり売れますね。 けど、皆さん加々見の花は持ちがいいと褒めてくれるんですよ。 そう!絶対本社の人に言いたかったんですよ! いい花選んでくれてありがとうございます」 物凄く礼儀正しい凜さん ちょっと金髪って見た目怖いから話すの躊躇したけど 彼女いい子だな 僕は、クスッて笑った 「葉山さん!!今日は、私の側に来ないでくださいね」 「えっ…」 僕…何かしちゃった!? 「えっ…あ…」 「あ~葉山さん、葉山さん何にもしてないですから! いや、葉山さんと並ぶと葉山さんの方が美しいから…… 何だか私が恥ずかしくて… もっとちゃんと化粧してくれば良かった…」 段々小さな声になりながら僕に伝えて来た ちょっと可愛らしく見えて 「僕より貴女の元気さがこのお店にあっていると思うよ 今日も元気に頑張りましょう」 言い終わる頃に駅ビルの開店放送が流れる 僕たちは、店先に出て開店待ちをしているお客様へご挨拶 「いらっしゃいませ。お待たせ致しました」
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