いかのおすし

1/1
前へ
/257ページ
次へ

いかのおすし

今日は、土曜日 お天気は、ピカピカに晴れた昼過ぎ 芽生君が学校での出来事を話してくれる 「お兄ちゃん、聞いて!! 昨日学校で 『いかのおすし』習ったんだよ」 芽生君が真剣に話をしてくれる 「イカのお寿司? 僕も好きだよ、イカのお寿司 函館で食べるイカ刺し美味しいんだよ」 そう答えると 「お兄ちゃん、本当のイカのお寿司じゃなくて ぼーはんのいかのおすし」 「ぼーはん?」 意味がわからず芽生くんの言葉を繰り返す 「そう! ついて《いか》ない 車に《の》らない 《お》おごえをだす 《す》ぐにげる 《し》らせる なんだって!」 「あ、昨日防犯教室だったね」 ようやく僕は、防犯教室があった事を思い出した 「あのね、背の大きい怖い顔の人が僕たちを拐うの でね、車に乗せようとして来て…」 芽生くんの言葉を聞いて ドクンと心臓が跳ねた 思い出したくない あの事が鮮明に思い出されそうな瞬間 僕の後ろから大きく包み込みながら耳元で声がした 「芽生、もう一回教えて」 そう言いながら僕の腕に宗吾さんの手が乗せられる 「パパ!! うん、車に乗せようとして来て 乗らないって大きな声を出すの」 「へー、どの位の大きさ?」 宗吾さんの手に力が入ったのがわかる 「行かないよー!!」 「凄い大きい声だな 瑞樹も言ってみろ」 手の力が緩み笑顔で僕を見る 「えっ…僕も…?」 急に話を振られて吃ってしまう 「ほら、瑞樹、大きい声出せるか?」 笑顔で問いかけて来る宗吾さん 「い、行かないよー」 うまく声が出ない… 「むむっ…瑞樹もう一声」 宗吾さんの手が僕のほっぺをすべるように撫でる 「お兄ちゃん、僕と一緒に言おう!! せーの」 「「行かないよー!!」」 二人で大きな声を出すと 「うははは、二人とも大きな声が出たな。 うちの子達は、大丈夫そうだな」 「お兄ちゃん、走って逃げられる?」 「うん、僕足が早かったんだよ」 声を出したら不安な気持ちが霧散した あの時もこんな大きな声が出せたら また違ったのかも知れないけど 今の僕があるのも あの道を通って来たから 無かった事には、出来ないけれど今がとても幸せ 「瑞樹、芽生、二人のピンチの時には声を出せ、絶対駆け付ける 俺は、二人を守りたい」 とろけそうな優しい顔で僕たちに伝える宗吾さんは かなり格好良い 「パパ!!パパもピンチの時は 大きな声をだしてよ ボクもパパ守りたい!!」 「あっ、僕もです。 ピンチの時僕も宗吾さんを見付けます」 宗吾さんの目を見ながら笑顔で言う 「二人ともありがとう 俺は、嬉しいぞ!!」 そう言うと僕達をハグしながら押し倒された 三人で天井を見ながら 無いとは思いたいが もしもの時には、ヒーローになる助けになる事を再認識した 早々 宗吾さんは、僕の耳元で呟く 「瑞樹…まずいピンチだ」 それが何を示すかわかってしまう僕も大概だとは思い 顔が赤くなってしまった 「そうだ、芽生くん 車に乗せようとした背の大きい怖い顔の人って誰だったの?」 お巡りさんとわかっているけど聞いてみた 「えっとね、いつもは 駅前交番にいるお巡りさんなんだって 顔は怖いけど心は人一倍優しくて動物には好かれるって言ってた だからパパとお兄ちゃんは、あのお巡りさんの事好きになるはずだよ!!」 「ん?芽生、なんでだ?」 「だってパパは、オオカミさんかクマさんだし お兄ちゃんは、ウサギさんだもん」 「そうか?芽生もかわいいクマさんじゃないか?」 宗吾さんが間髪入れずに言うと 「え~僕は、カッコイイクマがいいかな~」 と、そろそろお兄ちゃん風が吹く頃なのかな… 僕と宗吾さんは、顔を見合わせて微笑んだ
/257ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加