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あの西澤の声をふと思い出すと、怜は無意識に手の甲でごしごしと自分の唇を拭っていた。
夏の祭りの日の夜は、じっとしていてもしんどくなるくらい蒸し暑かった。
理央の唇も同じくらい……それよりも熱く、怜の唇を全部食べ尽くすような口付けをした。
交わす息も、怜を逃さないように二の腕を掴んでいた手も、全部、熱かった。
翌週からは文化祭が始まる。
推薦組、就職組と受験組で、かなり温度差がある。
公立高校なので、理系、文系で二分されているくらいで、国公立志望も私立志望もごちゃまぜだ。
休み時間、怜は珍しくスマホをいじっていた。
高校生になってもスマホを欲しがらない怜に、両親が無理矢理買い与えたものだ。
連絡用のアプリと、辞書系のアプリくらいしか入っていない。
検索用のサイトを開いて、怜は慣れない手つきで「タピオカ」と入れてみた。
オススメの店が載ったまとめサイトを、スクロールして見た。
「タピる」なんて、知らない単語も出てきて、知らない世界に驚くばかりだった。
「何してんのー? タピオカ?」
「わ……っ!」
背後から西澤の声が聞こえて、怜はスマホの光っている画面を隠した。
「へー。タピオカね、タピオカ」
……ややこしい人に見つかったかもしれない。
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