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イコールでもニアリーイコールでもなくて、ノットイコール。
ふんわり色づいた初恋と、目の前の男との間にかかる等号に、シャッと斜めの線を入れた。
思い出の理央を大事に撫でてから、また記憶の底にしまう。
一連の作業の途中で、理央が溢した言葉は怜の意識まで届いていなかった。
ぎゅるるる。
突然鳴った大きなお腹の音に、怜はきょとんとする。
「……はず。先生、すぐ帰ってくるって言ってたから昼持ってきてないんだよ」
胃のあたりを押さえながら、同じ名前の理央は机にこてんと頭をつけた。
横目でちらちらと怜のほうを見るのは……これは、飢え死にしそうだから助けて、というささやかで初対面にしてはちょっと図々しいようなサイン。
とはいえ、怜もお供えものを消費したせいで、家から持ってきたお弁当まで食す余裕はない。
「よかったら食べます?」
「えっ、いいの? というかれいちゃん。先輩なんだから敬語やめてよ。俺一年だよ」
「あっ、そうなんだ」
「ふっ……なんだよれいちゃん。さっきからぽやぽやしてる」
かわいーな。いただきます。
よく喋る後輩だ。
母親手作りのお弁当を「美味しい、美味しい」と、褒め称えている。
食べっぷりが傍から見ていて気持ちがいい。ちびちびと食べ進める怜よりも早く、理央は「ごちそうさま」と手を合わせた。
キラキラ、ピカピカ一年生の目が、高校生活に慣れすぎてちょっとくたびれた自分を見つめている。
真っ直ぐな視線に気恥ずかしさを覚えて、怜はなるべく早く昼食を飲み込んだ。
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