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足早に教室を去ろうとした怜を引き止めたのは、西澤だった。
「ユーレイくんも行こーよ。そしたら俺も行く」
ゆったりとしたマイペースな声だが、ぼそっと付け足した言葉に怜は「えぇ……」と困惑した。
どうして自分なんかを引き合いに出すのだろうか。
案の定、登校して三日目の怜は、二週間にして結束の高まったクラスメートには、存在を把握されていない。
「……行きます」
よっしゃ、と西澤は肩を組んで、怜を逃さないようにする。
びっくりしたけれど、一、二年は誘われることすらなかったので、少し嬉しかった。
怜はほんの小さく笑った。
……────。
密室、騒音、暗い部屋でチカチカと光る液晶。
初めてのカラオケはワクワクどころか、ほんの数分で「早く帰りたい」と、思ってしまった。
ユーレイくんなので、自分の分は回ってこない。
怜にとってはそれがありがたかった。
ずっと前から気配を消している怜とは対照的に、西澤の人気はすさまじい。
両隣にはクラスでも気の強いほうの女子が陣取っている。
怜はL字型のソファのところで、オレンジジュースをちびちび飲んでいた。
流行りの歌が流れて盛り上がるけれど、怜は知らない。
少なくなったグラスを持って、こっそり部屋を出て行った。
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