春の嵐

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「一応、ここに名前を書いてもらえますか」 利用者名と書かれた下に、学年とクラス名と名前を書く欄がある。 怜はプラスチックのバインダーを受け取り、記名した。 ──な、なんか、おかしかったかな。 あまり字は綺麗なほうではないし、まじまじと見つめられると気恥ずかしい。 表情に乏しかった青年の目が、大きく見開かれる。 「れいちゃん……?」 懐かしい呼び方に、怜は心の中でとある少年を思い浮かべていた。 頭も手も足もまだ小さくて可愛い。なよなよめそめそした黒髪の少年のことを。 ──まさかぁ。 あんなに可愛かった男の子と、今怜の前に座っている男は、頭の中でどうやってもぴたりと重ならない。 左右反転、上下逆さまにしたりどうやっても。 「れいちゃん……れいちゃんだろ?」 「う、うん」 名前はさっき返した用紙に書いてあるだろ、と怜は声に出さずに突っ込んだ。 「俺のこと、覚えてる? 夏川 理央」 ──違うな。うん、違う。 同姓同名だけど、顔も背も全然違う。怜の中の思い出の理央は、花も恥じらうような可憐さがあった。 だが目の前の男はどうだ。めそめそなよなよ感が一切ない別人だ。 「こんな偶然ってあるんだねぇ……」 「うん。俺もびっくりした。運命みたいだよね」
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