3 君がフォークでケーキが俺で

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3 君がフォークでケーキが俺で

病院からの帰り道、バスの中で俺は考えた。 つまり、アレか。 今懲りずに俺んとこに来る、あのイケメン常連ゾンビは、フォークって事なんだろうな。 やたら俺を齧ろうとするもんな。 ぶっちゃけ身長は向こうの方があるから、リーチも長い。故に油断すると首や腕を齧られかけるか、舐められる。 齧るって言っても、ソイツだけは他の連中のように本気噛みではないのがわかる。だからついつい手加減してしまうってのはあるな。 あと、好きだって言ってくれるし…。 いや、別に俺はゲイじゃない。じゃないけど、好意を向けられるのは悪い気分じゃねえっつーか。 ……いやそんだけだから。マジでねえから。 今日は欠勤の穴埋めの昼シフトも頼まれていたので病院からそのままバイト先のコンビニに出勤した。 体力だけは有り余ってるから、長時間仕事するのは苦じゃない。 昼時は忙しい。レジ作業だけで手を取られるし、少しピークが過ぎたら搬入のトラックが来る。 検品作業が済んだら補充をして、客がひけてる間に店内清掃をして、とこなして、夕方のピークに備える。 下校の中高生がチョロチョロ来て、仕事帰りの客が来て、って感じで夜になった。 夜のピークが少し過ぎて、発注でも掛けとくか…と端末を首に掛けて棚の商品チェックをしていると横に影がさした。 客か、と思い、退きながらチラ見すると、例の常連ゾンビだった。ヒェ…。 俺は店内にも関わらず端末(※とってもお高い)を抱えて守りながら構えたが、あ、今仕事中だわ、と思い出した。 そもそも、今迄もこういう連中が俺に迫って来るのは人目が無い帰り道とかで、それ迄は俺に接触する事は無かった。 病院で粗方の事を知った今ならその謎が解けている。 要するに、フォークがケーキに近づく時というのは、捕食時だ。それはつまり、殺すと言う事。 だって、食うって事なんだからそういう事だよな。 そんな犯罪行為を人目のあるとこでやったら即通報、逮捕なんだからそりゃやる訳無いんである。 だから仕事中なんかは気を抜いているとこがあったがそれって正解だったんだな。 なのにコイツは何故堂々と店内に入ってきているのか。 他の客の目も従業員の目も監視カメラもあるし、襲われる事は無いとわかっているけど、身構えてしまうのは仕方ない。 今の俺は、自分がケーキだと知ってしまったしな。 だがイケメンゾンビは俺をじっと見下ろして(ムカつく…)、暫く見つめた後、少し赤くなって 「かわいい…。いいにおい…。」 と呟いた。 俺はとってもびっくりした。 何故なら、俺がコイツの口から"好きです"以外の言葉を聞いたのが初めてだったからだ。 マジか。お前、アレ以外の言葉も話せたんか。 いや人間だからそりゃ話せるか。 つか、かわいいってお前。 いいにおいって、何? こんなツーブロ銀髪の目付きの悪い男を捕まえて、お前…。 病院で医師の先生にも言われたぞ。 『いや~、僕も何人もケーキの子は見た事あるけど、君みたいなタイプは初めてだよぉ。あはは。』 って。 アレって多分、もっと華奢で可愛い感じだからなんじゃないのか、他のケーキが。 いやイメージしか出来ないから知らんけど。 稀に大人になってる人が他にいても、こんな感じじゃないって事じゃね? なのにこのイケメンゾンビ改め、イケメンフォークはこんな俺を可愛いという…。 今日なんかは齧り付いても来ずに、いいにおいという。 俺は、このイケメンフォークと少しだけ話してみたいと思った。
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