7 どうせ執着されるなら

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7 どうせ執着されるなら

「ごめんなさい…。 ご馳走様でした。」 俺の前に座って俺の股間を拝む墨染。やめろ。 「めっちゃ美味しかったです。これからが楽しみです。」 「小学生の感想文かよ。」 やってる事は小学生じゃないけどな。 「お前、ちょっとだけって言ったよな。」 俺はスキニーを履き直しながら言った。 強く言えないのは、男相手なのに感じてしまった事と、墨染があまりにもテクニシャンだったからだ。 「ごめん、つい。 だって、なおくんの肌、美味しくて。あ、勿論ザーメンもすごく…」 「やめろ馬鹿。」 じろりと睨むと、しゅんとする墨染。ホントに犬だな。 「アンタさ、」 「海。」 名前を呼べという事か。 まあ…いっか。 「海はさ、」 俺は言い直しながら聞いた。 「ゲイなん?」 墨染…いや、海は、きょとっとして首を振った。 「違うよ?」 「は?いやいやいや、は?」 今の舌技、明らかにちんこを愛撫し慣れた感じだったじゃん。エロい動きしてたじゃん。 アレが素人な訳、ある? 俺は疑いの目で海を見据えた。 「ほ、ホントだってば! 男のちんこ咥えたのなんか、今日のなおくんのが初めてだってば!」 だって他の人間のちんこなんか、絶対美味しくないし…、と言う海。 「味覚障害からの摂食障害の繰り返しで、入退院もあったし、カノジョがいたのだって中学の時が最初で最後だし。」 「ふーん。」 そっか。家族を亡くしたって言ってたもんな。 嘘ではなさそうだ。 そして俺は気づいた。 もしかして、コイツ…童貞…? それを聞くと、海は恥ずかしそうにキャッと両手で顔を隠して、指の間から俺をチラ見しながら、 「なおくんに童貞捧げるね…。ちゃんとシュミレーションしてるから、心配しないで。」 と マジのテンションで言うから心が萎えた。 というか、こいつの頭の中では既に俺が抱かれてんのか。そうか。 「つうかさ。流石に付き合って数分で、これは無いんじゃねーかな。」 俺はこう見えて結構そういうとこ、ちゃんとする方だから。 こう見えて元カノ達を大事にしてたと思うし、避妊だって絶対してたから。 体の関係だってある程度付き合ってからだったし、ガツガツしてたつもりもないし。 まあ、結局浮気されてたけど。いや元カノは既に自然消滅したつもりだったのかも? 取り敢えず去る者は追わない方だから、それはもう良いけど。 海は、ごめんともう一度謝って、神妙な顔をした。 「俺、なおくんが好きだし、絶対食べたりなんかしないよ。 食べちゃったらなおくん、居なくなるもんな。 だけど、時々なおくんを味わいたいって思ってる。」 「それさあ、単にそれ目的で付き合いたいんじゃねーの。」 「正直言うと、確かにそれもある。」 あまりに素直に認めたから拍子抜けしたが、海は続けた。 「でも、いっときの食欲より、俺は生きて動いてるなおくんが見ていたいから、全然我慢できる。俺はなおくんが大好きだから一緒に生きたい。 なおくんは時々、俺と気持ち良い事をするついでに、少しなおくんをわけてくれるだけで良いんだ。それで俺は生命維持の為の食事をとれるようになる。 なおくんは俺の飢餓感を癒してくれるんだ。」 「お、おう…。」 急に饒舌になった海に気圧される俺。でもそれって、ぶっちゃけ俺、メリット無くない?只のフォーク助けというか、、、。 すると、そんないじましい俺の考えを見透かしたかのように海が言った。 「なおくん。俺、結構お金持ちだよ?」 「えっ?」 海は俺に、スマホを繰ってから画面を見せつけてきた。 「俺、学生の時に起業してるから。」 「あっ、KKG!」 KKGとは、とあるオンラインゲームを爆発的ヒットさせた事により、ここ数年の間に急成長したゲーム開発会社なのである。 勿論俺も一時カブれた。 画面には、そのKKDの若きCEOとして特集記事のインタビューに答える海の姿と、名前が。 驚いた。正直、打算が働かなくもない。 「だからね、安心して一生、俺のそばに居てくれて良いからね。 勿論、何かしたい事とかあれば協力するし。」 「…いや、…えーと…。」 「でも、浮気だけはしないでくれたら嬉しいな。 …雑味が混ざると、なおくんが不味くなっちゃうから。」 「……。」 海の綺麗なとろりと蜂蜜の瞳には強い狂気がちらりちらりと見えている。 もう今更、やっぱなしで!と簡単には覆す事が出来そうにない執着を感じる。 きっとここで振っても遠ざけても、海は諦めたりはしないんだろう。 断り続ける労力を考えれば、突き放すよりも一緒にいる方がコントロールし易くなってマシな気がした。 「よろしくね。」 海は蕩けるような微笑みを浮かべながら、俺の心を絡め取ろうとしているかのようだった。 そして、その優しい腕の中に俺を囲い込み、抱きしめた。 コントロールされてるのは、既に俺の方かもしれない。
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