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「でもまあ、子供ってのはいいもんだな」
祖父母の賑やかさを見ていた兄が呟いた。
「俺、産婦人科医になろうかな、命が生まれる瞬間に立ち会えて感動した。唯一出生証明書を書けるってのもいいし」
出生……あ、そっか。他の科は、死亡診断書しか、書かない──。
「それはダメ」
ソファーに深く座った玲さんが不機嫌に言う。
「なんで?」
兄が意地悪な笑みで聞く、なんでだろう?
「光輝が他のひとの──」
言いかけて目を背けてしまう。兄は「んー?」などといって額を突き合わせたけど──あ、俺、わかった、産婦人科なんて多くの女性が目の前で足を開くんだもんな、奥さんとしては複雑なのか?
「とにかく、駄目なものはダメ」
また兄を睨みながら、かわいらしく言った。それもジェラシーか。俺がわかったくらいだ兄もわかるはず、でも兄はなおも意地悪になんでかを聞き出そうとする、悪いやつだな。
と、玲さんが大きくため息を吐いた。
「ああ、疲れたろ、部屋で休んでな。少ししたら瑠唯も連れていく」
「え、でも……」
玲さんがうちの両親を見た。
「すぐに帰るわけじゃない、ここで気を遣っても仕方ないだろ。今はまだ体調も万全じゃないんだし、退院したばっかだぞ」
「そうよ、玲ちゃん、産後の肥立ちは大事よ! 無理はしないようにね!」
経験者の母がいう。
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