3. 兄の子

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「ひと月は赤ちゃんのお世話だけをするの! 玲ちゃんは寝てるだけ! 家事なんてもってのほか! 産後の健診まではひたすら休んで!」 「わかってるよ」 答えたのは兄だ、言いながら玲さんの腕を引っ張る。 「光輝くんはよくやってくれてますよ、私なんかいなくてもよさそうです」 保晴さんが笑顔でいった。 「そうですか、お役に立ててよかった! そうね、ちょうど夏休みに当たったのはよかったわね!」 そうか、ひと月だというなら、ぴったりだな。 部屋を出ていく兄の背を見送った、玲さんなんて兄にすっぽり隠れてしまう。兄が玲さんの肩を抱くと、玲さんの小さな手が兄の背を撫でた──いいな、と思った。 保晴さんがうちの両親に育て方がお上手で、なんて褒めると、両親はいやいやなんて謙遜して玲さんも素適なお嬢さんで、なんて褒める。 しょうもな……俺は割り込むように声を上げた。 「すみません、トイレお借りしたいです!」 「ああ、そのドアを出たら階段があります、その下にあります」 たった今兄たちが出て行って、閉められたドアを指さす。俺はいそいそ立ち上がりそのドアをそっと開けた。 出てすぐ左手に階段がある、それを兄に支えられた玲さんが上がっていく、既に中ほどはすぎていた。 なにかしゃべっているようだけど、内容まではわからなかった。そして最上段まで上がると立ち止まり玲さんが兄に向って顔を上げる──綺麗な横顔──その唇に、兄は躊躇なくキスを落とした。 ──それは、その女性の全てが、自分の所有物だと示すかのように──。 ふたりは微笑み、また会話をしながら歩き出す。そんな姿に無性に腹が立った。
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