208人が本棚に入れています
本棚に追加
☆
「俺も授業始まるまでここにいようかな」
トイレから戻って宣言した、もっとも用を足そうにもなにも出なかったけれど。
「え?」
両親が口をそろえた。
「だって産後って大変なんでしょ? 玲さんのお父さんは仕事をしてるっていうなら、兄ちゃんだけより俺もいたら、ちょっとは役に立たね?」
「そんなこといったって、ご迷惑なんじゃ……」
母が心配そうにいうが、保晴さんが口を添えてくれる。
「うちは見ての通り部屋は余っているので、お泊りいただくのは問題ないですよ」
やった!
「でも、玲ちゃんもナーバスになっている頃よ? そこに弟はいえ他人がいるのって、落ち着かないかも──」
経験者の母が語る、マタニティーブルーにイレギュラーなことは起きてほしくないようだ。
「別に介護のようにつっききりで世話するわけじゃないじゃん、掃除とか洗濯くらいなら手伝える」
洗濯──玲さんの下着とか触れるじゃん、なんて下心は懸命に隠す。
そこへ兄が戻ってきた。
「はあ? 瑞基が残る?」
母たちは仕事があり無理だ、明日には必ず帰る、でも盆休みにはまた来るからと息巻いた。
三男坊は残念ながら部活があるから愛知に戻るしかない。高3の晴樹は春には大学だが、スポーツ推薦が決まっている。決まっているとはいえ、今後の各大会の成績の次第も選考の基準に入っているので、そうそう休んではいられないのだ。
「別に、いたところで──」
「なんでもします、ご主人様。お役に立ちます」
下手に手まで揉んでいうと、兄は微笑んだ。
「こき使うからな」
なんだかんだで弟思いの兄は言う。
「へい、がってんでい!」
言うと皆が笑ってくれる、俺の本心も知らずに──かわいい人のそばにいたいんだ。
最初のコメントを投稿しよう!