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「出来心ねえ……お前、その辺で女性が倒れてたら、これ幸いと襲い掛かるわけ?」
んなことしねえよ、そこまで節操なくないわ。
「んー、やっちゃうかも」
そう言わなければ、兄嫁に手を出したことがバレてしまうから、そう答える。
「どんだけ盛ってんだよ」
「すんません。玲さんごめん、本当に、ごめん。もうしない、絶対しない」
謝るが、玲さんは応えてくれない、完全に怒らせた、そりゃそうだ……。
「そんなやつを玲のそばには置いとくわけないだろ、必ず帰れよ」
「そんな……」
「四の五のいうなら即刻放り出すぞ」
笑顔でいう兄がむしろ怖かった、首をすくめて素直にわかったと答えた。
結局そうなるのか、まだ玲さんのそばにいたいのに。せめて姿くらい見ていたいのに。
☆
もちろん、ふたりの怒りはそう簡単に解けなかった。まあそうだよな、俺だって彼女に手ぇ出されたら、徹底的にボコるわ。それをしないのは兄弟だからか、兄の余裕なのか。
それでも俺を警戒してか、ふたりは常に一緒にいるようになった、片時もといっていいくらいそばにいる。
俺のことがなくても仲睦まじいと見える姿を羨ましいと思いつつ、俺はせめて月末までいられるようにと家の手伝いは頑張った、必要だと思ってもらえるように──でも親もいい含められていたのだろう、盆休みの終わりに一緒に帰るわよといわれ、諦めて愛知に戻ることになる。
新横浜の駅まで、保晴さんが送ってくれる。その車内で。
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