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「……しかし、妊娠だ結婚だと……お前、まだ学業があるんだろう」
父が心配そうに聞いた。
「結婚、妊娠と学業は関係ないだろ」
「ないわけないでしょ、家庭を持ちながら勉強するなんて並大抵なことじゃないのよ。まだ若いんだし、どちらか諦めたら」
母はどちらかとはいうが、結婚と出産のことであることは兄の次の言葉の反応でわかった。
「じゃ学校辞める」
「馬鹿なのか!」
父の怒声が響いた、隣で母が大いに頷く。
「お前を東京の大学にやるのに、どれだけ苦労したか!」
「頑張ったのは俺だし、学費はほとんど自分でとった奨学金で賄ってる。払ってもらった覚えがあるのは交通費くらいだけど、今はそれもない。別に高額な進学塾に通ったわけでもなし、親に苦労を掛けた覚えはないな」
いわれて両親は唇を噛んだ。そうだったのか、学費だ交通費だ大変だと嬉しそうに言っていたが。
「どうしても無理なら休学するなり、一旦は中退して入り直すなりする」
さすが兄、俺ならまた受験勉強するなんて絶対嫌だ。
「別に中退も学歴だし」
確かにT大レベルなら中退でも箔はつくかも。
「だからって、せっかく医学部にまで入ったのに……っ」
母が泣きそうに言うと、
「もう、光輝、やめて。なんでそう喧嘩腰なの」
玲さんが笑顔で仲裁に入った。
「ごめんなさい、うちの父も光輝さんがきちんと医師免許を取って、医師として独り立ちするまでちゃんと面倒を見るといっています、心配はなさらないでください」
玲さんのお父さんは自営業だけれど仕事は軌道に乗っていて、それなりに裕福なのらしい。扶養に兄が増えようが、子供がひとり増えようが、どうということはないようだ。
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