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こんなところに来る前は、裕福な暮らしをしていたと思う。お手伝いさんもいて、家だって広かった。母親の教育はたまに嫌になるほど厳しかったけれど、いつも最後にくれる手作りのビスケットがおいしくて大好きだった。
「おーい、コユキ、手、止まってんぞ〜」
「す、すいません」
「お前の母ちゃんの尻拭いはちゃんとしろよな〜」
ギャハハと笑う他の作業員たちの声があちこちから聞こえてくる。ここではこの事件の元凶の雪の子としてコユキと呼ばれている。嫌な名前だ。自分の本当の名前すら忘れてしまいそうになる。
確かに母親の教育は厳しかったが、廃棄されるこの雪たちのように必要以上に叱りつけることなんてしなかった。必要なことを必要な厳しさで、教えてくれていただけだったんだ。だからきっと何かの間違いで、毎日毎日僕が廃棄している雪たちもそうだったんじゃないか、そう思いたくなってしまう。だって、僕の母親は、すごく優しい人だったんだ。
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