俺という生物

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俺という生物

 結論から言うと俺は俺に戻れて本当に良かった。  五感で捉える膨大な情報は大脳新皮質に格納されているらしい。   記憶とは不思議だ。  睡眠中に不要な記憶を削除しているというなら、その過程で削除候補に振り分けられた記憶が夢という形で表れるんだろうか。    俺、柿沼静流(かきぬましずる)は有り得ない体験をした。  それを伝えるには少し記憶を巻き戻す必要がある。  御茶ノ水の居酒屋で、高校時代の友達と4人で飲んだ昨晩まで────  予約席に案内する店員。  従う足取りは重い。  天井の染みと照明の埃。  どうでも良い点ばかり目に付いた。  今思えば白い布に一点の染みを見付けたくなる心境にあったんだろう。  癒されるというのは少し大袈裟かもしれないけど。    通路に並ぶ水槽と生け簀。  魚より水槽に付着する黒い点やカビらしき物に視線が糊付けされる。  名称が浮かばない其れ等の汚れに、取るに足らない俺自身を重ねていたのかもしれない。
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