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 穂波は京都の生まれだ。  産声(うぶごえ)をあげてから中学時代までを京都で過ごした。  両親は穂波が小学生の頃に離婚した。離婚した原因は、母親が男を作って家を出たからだ。穂波は父親に引き取られることになった。  中学3年生までは父と2人暮らしだった。突然、父親の海外転勤が決まったのは、晴天の霹靂(へきれき)だった。  父は娘に「一緒に行こう」と言ったが、穂波は日本を離れたくなかった。  日本語の通じないところに住むのは不安だったし、日本ですら人間関係を上手く築くことができなかったのに、海外でやっていけるとは思えなかったから。  父と離れて暮らすことにした。  穂波は急遽、志望校を変えた。父方の祖母の住む、静岡にある学校を受験した。  白北(しろきた)高等学校、普通科。  必死に勉強して無事合格を勝ち取った。  穂波はさっそく、祖母の家に引っ越した。  静岡でひっそりと暮らす祖母の千代。彼女の夫はすでにこの世にいない。 「あれ、今日も来たんだね、吉郎。いつも顔を見せてくれてありがとう」  穂波は今日も、千代宅から北高(きたこう)へ通う。  制服のスカートの裾を翻して外へ出ると、玄関先の門前に座るイヌがいた。  通りがかりに撫でようとすれば、さっと首を伏せて避けられる。相変わらず気難しい。 「今日はあんまり時間ないんだ。学校に遅刻しそうなの。また今度ね!」  穂波は気にした素振りを見せないで、自転車に飛び乗った。  北高までは中古の電動自転車で通っている。行きは下り坂で楽だが、帰り道は坂を上っていかなければならない。  だから、父に電動式をねだって買ってもらったのだ。  坂道で車輪を転がすと、面白いようにスピードが出た。  ちらりと後ろを振り返ると、珍しく、吉郎がまだこちらを見ていた。
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