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 8時30分、朝のホームルームギリギリの時間。学校へ着くと、普通科Aクラスの教室へ駆け込んだ。  まだ先生は来ていない。ほっとして机の上に通学カバンを投げ出した。  額に汗が滲んでいる。 「あっ」  穂波はカバンの中を覗き込んで青ざめた。 「どうした? 市村穂波(いちむらほなみ)」  隣の席で読書をしていた椎名朋江(しいなともえ)が顔も上げずに問う。  椎名はメガネにボブヘア、少し頬のふっくらした女の子だ。理系を目指しているらしいが、それにしては意外なほど小難しい文学小説を好んで読んでいる。 「今日、体育あるよね……。体操着を忘れたの」 「ふうん、じゃ。他のクラスの友達に借りれば?」 「他のクラスに友達なんていないよ……。椎名さんも知ってるでしょ?」  何せ、入学してからまだ3ヶ月ほどしか経っていない。加えて、穂波は他所(よそ)の地域から引っ越してきたのだ。  顔見知りなどもいない。 「椎名さんこそ、他クラスに友達とかいないの?」 「他クラスどころか、このクラスにもいないけど」 「え……あ、あたしのことは?あたしたち友達じゃなかったの!?」  変わりもの同士、机が隣同士ということもあって、穂波と椎名は言葉を交わすようになった。  しかし、友達かと問われれば、確かに微妙な距離感だった。お互い連絡先すら交換していない。 (高校生になったら、今度こそ! 友達とカフェでおしゃべりしたり、恋話(コイバナ)に花を咲かせたり、青春を謳歌できると思ったのに)  これではまた、家と学校の往復生活になるのではないか。  体操服を忘れたこと、そして椎名に友達認定されていなかったことがショックで、穂波はうなだれた。
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