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「光星さん!」
するとドーム中央部、映写機の辺りから声が聞こえる。暗がりに人影が見えた。
「…朝輝くん?」
「手、空に伸ばしてください!」
「え?」
「いいからいいから!」
わけもわからないまま、私は言われた通り手を伸ばす。星をつかむようにまっすぐと。
…当然、星に手は届かない。
「…ほっ!」
朝輝くんが少し力んだ声を出した。声の方向の空を見上げる。
「…ぁ」
彼のいた方向から、弧を描いてこちらに向かってくるキラキラと輝くなにか。流星の大軍の中を掻き分けるようにして飛んでくる光。
その光は私の手にすっぽりと収まった。
「…金平糖」
光の正体は1粒の金平糖だった。
手の平の上でまた1つ、キラリと光る。
「ナイスキャッチです!」
「これ…」
「現実の星は無理でも、それなら星を掴んだみたいで素敵じゃないですか?」
朝輝くんは降り積もるようにして散らばる光の絨毯の上を歩き、こちらまでやってくる。
ドキドキと…心臓が早鐘を打って止まない。
「この金平糖の山、自腹で買ったやつです。でも床一面で500kgじゃ全然足りませんでした」
「ど、どうして?」
「光星さんが言ってた景色を再現したくて」
「…っ。そ、そんな」
彼のまっすぐとした瞳をまともに見ることが出来ない。
昔見た感動をもう一度なんて…こんな嬉しいサプライズをされて胸が高鳴らないはずがない。
「…僕がこの職場に初めて来た時、光星さんは誰よりも一生懸命だったんです」
「…え?」
彼が唐突に語り始めた。
伏せていた顔を上げて、朝輝くんを見る。
気がつけば顔がはっきりと見えるくらいの距離。暗がりだが、彼の蒸気した頬の赤ささえ見える。
「ここで働いている人の中で誰よりも輝いて見えました。どうしてそんなに一生懸命なんだろう?って…僕はずっと気になってました」
「……」
「ルーツを聞いて理解しました。光星さんは他の人に感動を伝えたくて一生懸命だったんだと。そんな風に働いている人が、輝いていないはずないじゃないですか」
「…そ…れは」
褒められて照れる。私の頬もきっと真っ赤だ。
「僕、光星さんに一目惚れしたんです。キラキラ輝いてる光星さんが素敵に見えて仕方なかったんです」
「…っ」
田舎から憧れてやってきたキラキラした大都会。でも東京という夜空では、私は凡百の星なんだと。輝く星になれなかったなと諦めていた。
でも見てくれている人はいたんだ。無数に散らばる星々の中から、私を…私だけを…。
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