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………
…
「と、まぁそんな感動を感じてから、私は大の天体好きになってしまったわけだよ」
「えー、めっちゃ可愛らしいですね!」
「…馬鹿にしてる?」
「してないですよ!」
「……ふぅーん?」
自分でも子供っぽい理由だと思う。
だからこそからかわれる覚悟はしていたが、聞いた彼は感動している様子。
思い出が肯定されたようで嬉しかった。
「そんな子供の時の記憶が私をつき動かしてるんだよ。だから今回の子供向けの企画も前々から担当したくてさ」
「…光星さんの小さい頃と重ねて?」
「そんな大層なものじゃないよ。でもほら、東京って星空も滅多に見えないし、雪だって降り積もらないじゃない?」
代わりに便利で過ごしやすい場所だと思う。でも私にとって当たり前のようにあった景色が見えないのは複雑でもあった。
悪いことでは決してないのだけれど、こんな世界があるんだよって言うのを知って欲しい。
「だからせめて…プラネタリウムでは私が感じた感動を少しでも伝えられたらなって」
「…光星さん」
と、ここまで言って我に返る。
しまった…いい歳した女が飲みの席とはいえ少し語りすぎた。茶目っ気出して濁さなきゃ!
そう思い朝輝くんの顔を見ると…
「…っ」
いつになく真剣な表情で私を見ていた。
え、なに…?
正直、彼を直視するのは苦手だ。悪い意味ではなく…彼の瞳を見てると少し照れる。
「……やっぱり光星さんはかっこいいですね」
「え、えぇ?」
少し微笑みながら唐突に褒めてくる。
まっすぐとした瞳にドキドキした。
「絶対光星さんの企画…成功させましょう…!」
「う、うん…」
机の対面越しにグッと距離を縮めてくる。
あまりの直球さについに見られなくなり、私はジョッキをグイッと煽った。
「あ、す、すみません!つい本音が…」
「い、いや…」
しかし彼はすぐにハッとして、ふいっと顔を逸らした。口元を抑え、蒸気した頬を覗かせる。
本音って…余計恥ずかしい…。
「あ、あははっ。で、でも本当に雪みたいに流星群が降ってきたら地球終わっちゃいますね!」
「だ、だよねぇ〜?人類滅亡?ノストラダムス?みたいな!」
「光星さん、ノストラダムスは古いです」
「……なんか一気に酔い覚めたわ」
朝輝くん、急に冷静にならないでよ!私も対して世代じゃないわ!
誤魔化した流れでなんとかいつも通りになれたものの、彼の真剣な眼差しが脳裏に焼き付いて、私の頬は熱いままだった。
「……降り積もる」
「?」
その後、朝輝くんは少し憂いた表情をしていた。なにか考え事をしている様子。
そんな彼が気になりながらも、2人だけの飲み会の時間が流れていった。
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