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その声は、凛としてるのに親しげで、不思議な響きだった。無視しようかと悩んでいたら、女の子はきいっとブランコを乗り捨てて、そばに駆け寄ってくる。
「な、何か用?」
間近で見てもやっぱり美人。でも容貌に見とれるというよりは、怖い気持ちの方が強かった。
「この公園の電灯ってどうして青いの? 君、何か知ってる?」
「……は?」
愕然とする。奇々怪々なことを聞かれるのかと身構えていたが、来たのは雑談にしても雑すぎる質問だった。
「さ、さあ、俺は知らない。この公園にはずっとあるし、青色であることも今知った」
「この公園の常連じゃないの?」
「家の近所だけど」
「ふうん。そうなんだ」
これで会話が終わりかと思いきや、女の子はにこりと笑って言葉を続けた。
「さっき調べたんだけどね、人の目は暗いところだと青色の光を捉えやすくなるんだって。プルキニェ現象っていうらしいんだけど、犯罪数を減らす効果があるそうよ」
「は?」
少し腹が立った。この子、ただ知識をひけらかしたいだけだったのか?
「知ってるなら俺に聞く必要ないだろ」
「ううん、この公園の電灯が青い理由は知らないから、何か危ないことでもあったのかなあと思って」
公園前にある、不審者出没注意の看板を思い出す。電灯がどうこうというより、まず深夜に出歩く方が危険だろ。
「とにかく俺は知らない。早く家に帰れよ」
「あなたは家出をしてきたの?」
「眠れないから少し散歩をしてるだけだ」
「あら奇遇ね。私も眠れなくって」
「いいから帰れ」
「私はまだ帰れないの」
はっとして口籠る。彼女も家出をしたのか。
「どうしたの? 急に黙っちゃったね」
女の子はくすくすと小さく笑って、「そうだ」と提案をする。
「折角だし私と一緒に散歩しない? あなたも暇でしょ?」
「勝手に暇と決めつけるなよ」
「少しくらい私の趣味に付き合ってくれてもいいじゃない」
「趣味って何だよ」
「謎拾い」
「……謎拾い?」
そんな趣味聞いたことがない。
少女はくるりとスカートを浮かせて回り、青い電灯を指差した。
「世の中には、解かれることなく消える些細な謎がたくさんある。あの青い電灯が立つ意味を、君が知らないように」
「……」
「私はそういう、誰も気に留めないような小さな謎を見つけて、考えるのが好きなのよ。だから”謎拾い”って呼んでるの」
「造語かよ」
「うん、造語だけど」
馬鹿馬鹿しい。心の中で悪態をつく。
謎拾いだって? そんなことをして何が楽しいのか、全く想像できなかった。
だいたい、今は深夜だ。俺は明日学校がある。睡眠を疎かにしたくない。断りの文句を言おうとしたが、
「あなたの名前は?」
遮られた。
「人に名前を聞くなら、」
「ねえ漫画とかでよく『人に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀だ』って言うセリフがあるじゃない? そう言い返してくる相手の方が失礼じゃないかなって思うんだけど、私だけ?」
「……蒙咲 歩。これでいいか?」
出鼻を挫かれた気分だった。
「私は矢中 千里。ちさって呼んでいいよ。よろしくね」
呼べるか、初対面の女子に「ちさ」とか。
ふふっと柔らかく微笑む矢中は、「ねえなんて呼べばいい? 蒙咲くん? それとも歩くん?」とさらに話を進めてくる。同い年くらいとはいえ、よくもまあ深夜に会った男にぐいぐい来れるな。余程の会話好きなのか。
「あのさ、これから一緒に行きますみたいな流れになってるけど、俺は行か」
「あゆって呼ぶのはどう?」
前言撤回。こいつ人の話を聞いていないだけだ。
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