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「そうでしょ?そりゃ…、あの場で、進藤に襲われる事までは想定してなかっただろうけど、茉莉ちゃんは、丁度良い機会だと思ったんじゃないかな。だから、以前から認めていたあざみちゃんへの手紙を置いて、そのまま海に身を沈めたんだよ…」
「まぁ…、秋乃の言い分も、分からない事はないけれど、その場合、幾つか、矛盾点が生じるわね」
「矛盾点って…、どんな?」
交差点の信号が赤になったので、私はゆっくり、ブレーキを踏み込む。
この時間帯にしては、道が割と混雑していて、サルビアに着くまでは、まだ、しばらくかかりそうだ。
「どんなって……、まさか、もう忘れたの?」
大きく溜息をつきながら、あからさまに呆れた表情を、くろかが向ける。
「え…、何か言ってたっけ…?」
「あのねぇ…、昨日、話したばっかりでしょ。あの手紙に使われている材質は少し特殊で、水性でも油性でも、書いてから五分程でインクは乾くって。それなのに、それぞれ、筆跡の違う本文と追伸文のインクが、重なるように滲んでいた事から…」
「本文と追伸文は、ほぼ同時期に書かれたものだと推測出来る」
確かに、そんな事を、くろかは言っていた気がする。
「…ええ、そうよ。あざみちゃんの話では、あの手紙の追伸文は、彼女がその場で書いたものみたいだから、少なくとも、その五分前に、茉莉ちゃんは本文を書いていた事になる」
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