器の違い

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器の違い

私は怒っていた。 夫の兄夫妻や親達に。 募り募った怒りは、ある日突然、大爆発を起こす。 本人達じゃなく、虐げらているはずの、妻の私が守るべき夫自身へと。 理不尽な事は分かっている。 夫の家族を許容出来ない私が夫に八つ当たりをしているだけなのも分かっている。 だけど。 嫌だったのだ。 我慢出来なかったのだ。 夫は慣れてるかもしれないが私は慣れてない。 結婚で環境が激変したのは私であり、夫ではない。 二人の幸せを夢見ていたのに、周囲がそれを壊していく。 許せない。 許し難い。 憎らしい。 物理的な距離が近いと精神的な距離も近くなる。 遠慮もなくなるし、礼儀もなくなる。 自分で出来ることもせず、頼り、甘え、驕り、我を押し通そうとしてくる。 一つを許せば二つに増えた。 二つを我慢すれば三つに増えていた。 三つを許せば四つや五つと際限がない。 こちらが疲労するばかりで改善されないのなら、どこかで断ち切られねばならない。 もう嫌だと泣く私を夫は受け止めてくれた。 夫の家族を最低だと叫ぶ妻を受け入れてくれた。 引っ越したい、離れたいと訴えた言葉は、すぐに実行された。  気付かなくてごめん。 気付いてやれなくてごめんな。 と、醜い内面を曝け出した私に夫は謝ってくれた。 それでもストレスの限界を突破していた私は、更に夫に詰め寄るのを辞めなかった。 自分の身内を全否定するなんて酷い妻だろう。嫌いになっただろう。離婚したいなら言って。私は貴方に相応しくない。 夫の身内が嫌いだった。 でも好きになれない罪悪感もあった。 夫自身を愛していた。 でも夫の家族を嫌う気持ちが夫までもを巻き込みそうで、怖かった。 愛が違うものに変わりそうで。 愛しているのに憎しみにすり変わりそうで。 夫は悪くない。 でも悪い。 年功序列最下位に留まっているのは他でもない夫自身なのだ。 抗って欲しかった。 自分を大事にして欲しかった。 私の夫だから。 私の大切な人だから。 家族が年功序列の本来の意味を捻じ曲げて夫をいいように扱うのなら、蹴り飛ばしたっていいだろうに。 物理的に離れても嫌な過去が追いかけてくる。 追い詰めてくる。 嫌で嫌で、夫を責めて責めて、自分自身を嫌いになって、こんなことになるぐらいなら結婚するんじゃなかったと、自分の決断まで疑って後悔して苦しんだ。 家庭崩壊。 というよりも、私が崩壊している。 私だけが。 なのに、夫の身内は変わらない。何も。何一つ。 壊れゆく私に夫は言った。 君が何と言おうと離婚しないよ。 嫌いにもなってないから安心して。 むしろ、結婚後の方がもっと好きになっている。 だって君は僕の為に怒ってくれているんでしょ。 可愛いと思いはすれど嫌になるはずかない。 笑って、抱き締めてくれた。 そこで、やっと目が覚めた。 自分を取り戻せたような気がした。 負け犬の遠吠えと言うけれど。 本当にその通りだと思う。 夫は虐げらていたんじゃない。 その立場に甘んじていたわけでもない。 私の主観で夫の身内を罵倒したことも、可愛いと笑える強さがある。 強いからこそ、色んな事を受け流せる大きな器を持っていた。 夫の身内も私も弱かった。 弱かったから吠えていた。 夫に。 強い夫に。 私も同じだった。 嫌いな夫の身内と同じ振る舞いを夫にしていた。 本人に言わないのがその証拠だろう。 言えば角が立つならば、夫にも言ってはいけなかった。とは言え、私の全てを許容する夫でなければ、この考えに到達することはなかったと思う。
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