4人が本棚に入れています
本棚に追加
次に私が彼女に会ったのは、ココアを飲ませてもらってから、ちょうど一週間がたった日の夕方だった。
本当だったら、別に昼から行っても良かった。私はその日も学校をサボっていたから。でもそうしなかったのは、余計な詮索をされたくなかったからだ。
私は彼女に余計な詮索をされたくない。それは、彼女を嫌いたくない、という感情と表裏一体だった。そのことに気がついて、私は昼中考え込んでいた。つまり、私は彼女を嫌いたくないということは、そのまま私が彼女を好きだということに繋がるのかどうかを。
けれど、結局答えは出なかった。
出したくなかった、が正解かもしれない。
もしも私が彼女を好きなのだとしたら、私はもう彼女に会いには行けない。だって、彼女は女だし、私だって女だ。
そんなことを、昼中勉強机に突っ伏して考えていた。
そして日が暮れて夕方、私はもそもそと立ち上がり、部屋着のスウェットからジーンズとセーターに着替えた。
なぜ彼女の部屋に行くのか、それについては考えないようにしていた。
セーターの上にダッフルコートを引っ掛け、薄暗い住宅街を歩く。ほんの三分もあれば到着してしまう彼女の家。
私は煮えきらない気持ちで遠回りをし、十分間くらい青いアパート付近をさまよった。
すると、アパートの角部屋、彼女の部屋から女が一人出てくるのを見かけた。
きれいな女だった。黒いボブカットは艶やかで、肌の色はごく白い。そのコントラストがはっとするほど目を引く女だった。
女は完全な無表情で彼女の部屋から出てきた。待ってよ、と、彼女の声がその背を呼び止めるのが聞こえた。しかし、ボブカットの女は振り返りもしなかった。
私は思わず足を止め、ボブカットの女を目で追った。
それくらい、彼女の声に悲痛な響きがあったのだ。
待ってよ、愛理。
彼女はもう一度ボブカットの女を呼び止めようとしたが、やはりそれは無駄に終わった。女は振り向かずに住宅街を大股に進んでいき、その背中はすぐに見えなくなった。
私はしばらく躊躇した後、青いアパートのドアをノックした。
彼女はすぐにドアを開けた。愛理、と、期待に満ちた声で私ではない女の名前を呼びながら。
ドアを開けた彼女は、薄着だった。丈長いニットを一枚身につけただけ。多分、その下には下着をつけてもいなかった。おまけにその髪も乱れ、頬には涙の跡すらあった。
最初のコメントを投稿しよう!