第十二章 春の気配

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「お言葉はありがたいんですけど、僕は殺し屋にはなりませんし、健さんの傍を離れません」 「そうだろうね」  新見は手にしたケーキの箱をベッドサイドに置くと、健に対して話した。 「小咲くんの治療代や入院費は、気にしないでくれ。私が全額保証する」 「いいのか?」 「私が彼を、傷つけた。これくらいの後始末はしないとね」  仁道会から受け取った前金がある、と新見は話す。 「それを当てるから、大丈夫だ。もっとも、君を始末できれば、後の半分が手に入ったんだが」 「儲け損ねたな」 「まぁ、君のおかげで仁道会は滅茶苦茶だ。いまさら関わるつもりもない」  では、と新見はそれだけで背中を向けた。 「またいつか、美味しいチーズを教えてくれ。小咲くん」 「新見さん」  未悠の返事を待たずに、新見は病室から出て行く。  これ以上、未練を引きずることはできない。  新見もまた、未悠に惹かれていた。  病室の外で、独りごちる。 「また、会うことがあるんだろうか」  その時は、暗殺者として再び健の前に立ち塞がることに? 「その時は、その時さ」  にっ、と笑って、新見は医院から出て行った。  風は、少し春の匂いがした。
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