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その頃、ソフィアは馬車から視線を外へと捨てていた。
眼前にはエバンズ子爵夫人である母が、今更なことを問い詰めていたからだ。
「ねえソフィア、あの帳簿の金額はどういう事なのか説明して頂戴」
アンが用意して欲しいと懇願してきた二つの物を、「自身の誕生日プレゼント代」として上げていたことを言っていた。
「欲しい物がありましたので」
天真爛漫な笑顔が逆に圧を感じさせる。
夫人は「でもね」と食い下がった。
「何を購入したの? それにプレゼントなら沢山贈っているじゃない」
それを聞いたソフィアは次に俯くと、眉を寄せ乾いた笑い声を出す。
「ねえお母様、私の好きな物をご存知ですか?」
「……な、んですって?」
目線のみ上げて、見透かすようなその瞳があまりにも不気味で、それ以上口を開けずにいる夫人に馬鹿馬鹿しいと思いながら、
「ぬいぐるみ、たっぷりなレースがあしらわれたピンク色のドレス、可愛らしいアクセサリー、まるで子供が読むような物語……何処の誰と勘違いしてらっしゃるのでしょうね」
毎回毎回、と皮肉を告げた。
〝お前が偽善で飛び回っている孤児院の子供たちと混濁しているのだろう〟と。
「だって好きじゃないの。ぬいぐるみも、レースもピンク色も……」
「いつの話をなさっています?」
冷めた視線、冷めた態度。
ソフィアはもう十七歳になっていた。
何社もの新聞を取り寄せていたのは、そこに母の名が書かれてあったから。
一緒に居ることが出来ずとも、紙面と向き合えば母がいると嬉しそうに微笑んでいた純粋な子供心は、十三歳の頃に死んだのだ。
何が〝慈愛に満ちた聖母、エバンズ夫人〟だ。
〝孤児院の子供たちは皆口を揃えて、優しく温もりを与えてくれる夫人に感謝を〟
……白々しい。
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