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1、ヴェロニカ・ウッドの秘密
中位中流層、今勢いのある新聞社の家庭に生まれたが。
経営者である父は、じっとしていることが苦手で、趣味の旅行も兼ねて自らも記者として様々な地を飛び回っていた。
一人娘であるヴェロニカと母は、そんな父とはまるで他人のように別々に暮していて。そこにすらまともに寄り付くことすらしてくれなかった。
母は「自由を奪われると死んでしまうような人なのよ」と笑って、許すような人で。
その奇妙な生活の理由が分かる頃に、父が死んだ。
冬麦の収穫がちらほら始まる時期だった。
「今日、あの人が帰ってくるの」と上等なワインを買いに出た時、町の中心で、身ぐるみを剥がされ、野生の鳥なんかの餌に成り果てた男の死体。
店の前のゴミを片付けるみたく、迷惑そうな表情で掻き集められ放られたのがヴェロニカの父だった。
何故それが父なのか。胸骨の辺りに、よく見た新聞社のバッジが直に刺さっていたのを見たからだ。
まるで見せしめのように。
母は無理して微笑みながら、「嫌ね、治安が悪いったら」と他人事を口にしてヴェロニカの手を掴み、その場を離れた。
「あれはお父様だった!」
屋敷に着いてすぐに問いただすと、
「あの人の厚意を無駄にしてはいけないの!」
泪に沈む母が、ぽつぽつ、と言い聞かせる。
「一緒になる時に言われたの……。自分は経営者であるけれど、記者として生きたい。それはつまり、いつ誰に恨みを買うかも分からないからね。だから君を守る為にも、他人のように暮すことが最大の愛情だ、と」
「だったら、お父様は……」
「見たでしょう? あの胸に刺さったバッジを。きっと釘を刺しているのよ。きっと今頃、新聞社の方も燃やされているわ」
「そんなことって」
「だからねヴェロニカ、貴女ももう新聞社の方にアレを送っては駄目よ」
念を押すよう、「分かったわね」と言い付けて、覚束無い足取りで自室にこもってしまった。
取り残されたヴェロニカも、静かに自室のドアを開けデスクの引き出しに指を掛ける。
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