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そうしてそれぞれの時間は過ぎて、夕方。
エバンズ家のタウンハウスでは同僚の客間女中がアンを呼び止めた。
「メイド長がね、今日はご主人様たちご家族が遅くなるそうだから、これから使用人たちで食事会を開こうって話になったの。アンはどうする?」
一階のキッチンで、ささやかなクリスマスパーティーを低下層のメイドたちでしようと言うのだ。
(お嬢様が帰ってくる前に終わらせろってことかしら)
嬉しそうに告げる同僚に、アンもその表情を真似て「それは素敵ね!」と合わせる。
「でもごめんなさい、用事が終わらなくて。顔だけは出そうかしら……考えさせて」
お嬢様が目を掛けているのだ。
きっと知れぬ仕事があるのだろう、と思いながら。
「それは残念。あとロニーさんたちは参加すると思う?」
「聞いておきましょうか?」
そう返せば、胸を撫で下ろして気の抜けた表情を見せる。
「お願い。何だか上位の方々でしょ? 私らなんかと同じ席なんて、聞きづらかったの。それに誘わないっていうのも……」
「そうね、今から伝えて来る」
「ああ、助かる」
顔の前で両手を合わせる同僚に、笑顔で背を向けロニーの元へと向かう振りをした。
何食わぬ顔で地下にある自室へ戻ると、白い布で巻かれた何かを両手で抱え二度頬擦り。
「助かるなんて、むしろこちらの台詞よね」
(あの女もきっと意識を取り戻していることでしょうから……)
そして二人は再びあの扉の前にまでやって来た。
「というわけで、今日の食事会に顔を出せそうですか?」
「まあ無理でしょうね。キッチンに集まって騒いでいて貰った方が好都合というものです」
くすくす、と声を漏らしながら鍵を、ドアノブを回せば。潤滑油の足りない扉は奇妙な音を鳴らしながら開けられた。
暗がりの室内に、ロニーが手にした蜜蝋の控えめな炎が揺れて……。
照らされた女は髪を振り乱しながら顔の中心に皺を寄せ、喉が焼けているのだろう。
「あんたらっ、どういうことだよこれぇ……!」
酷く掠れた老婆のような声をやっとで発した。
何だ、随分と元気じゃないの。アンは愉悦混じりの表情で見下ろし、
「ごきげんよう、アンバー・フラン」
足を大きく斜め後ろに引いて大袈裟なカテーシーを一つ。
メイド服には見合わないほどの所作だった。
俯いていた視線が流れるように、すっ、と上がると、それはもう侮蔑を露にしたまま声は怒りを含んでいる。
「いいえ、汚れた金に群がるゴミ虫かしら……貴族ごっこは楽しかった?」
それを聞いて左右に身を捩り、憎々しげに睨み上げる女と視線が交わった。
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