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「たかだか使用人風情が、私にこんなことして。ただで済むと思うなよ!」
虚勢は木霊し虚しく消えた。
アンは大笑いしながら女に近付きその場に屈む。
これは以前のお礼だと、平手を思い切り振りかぶって頬を打った。
「何すんの――っ」
「たかだか愛人の連れ子が、フラン男爵家の末娘に成り代わっておいてなんですって?」
「はっ……?」
口の端に薄らと血を滲ませ女が固まる。
「何でそのことを、って表情ね」
「違う! 私は正真正銘アンバー・フランだよ!」
焦りを感じさせる表情で振り絞る声。
すると往生際が悪いわね、と目の前に一つの指輪が。
近過ぎてそのリングの内側にピントが合う頃。
刻まれたその名に女は絶望で顔色を染め、上擦ったまま。
「うそ、嘘だ……じゃあ……あんたっ」
そんな反応をしてしまえば、自分が偽物だと白状しているというもの。馬鹿ね、と。
アンは穏やかな笑みで頷いた。
「そうよ。最初から貴女が偽物だと知っていたの。だってこの私こそがフラン男爵家が次女、アンバー・フランなのだもの」
優美に立ち上がりその指輪を嵌めると、
「この指輪はお母様から頂いたもの。きちんとした鑑定書まで持っているわ……」
今度は無表情で女を足蹴にした。
「それで、貴女は誰?」
「違う……聞いて……あんたは死んだって聞かされてたの。私は連れて来られただけ、名乗れと強要されてただけなんだよ」
「ふうん、貴女のお母様が……屋敷に来て何をしていたか知っている?」
「知らない、見てない!」
今度は腹部へ容赦なく爪先を沈める。
嗚咽と、声にならない悲鳴を吐き出し、ぐったりとする女の髪を鷲掴みにして目を合わせた。
「魅力もなく子も産めない。貴族の妻として女として恥ずかしくないのか、って……こうして暴力を繰り返して笑っていたのよ」
「母様が、そんなこと……」
「ドレスも宝石も、追い剥ぎのように奪ってね。みすぼらしい格好を強要し、貴族に使用人のような真似事をさせて遊んで。お前の母親はそうして私のお母様を殺したの」
傍で聞いていたロニーの表情も陰る。
女は俯き暫し沈黙した後、何かを思いついたかのよう必死にアンへ訴えた。
「あ、あんたにさ、名前を返すよ!」
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