15、タンジーを編む (終章)

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「……なんですって?」 「今日が終わったら逃げようと思ってたんだ、やっぱり私には貴族なんて性にあわないからさ」 「…………」 「そうだこのまま入れ替わろうよ、私がこの屋敷の使用人、あんたはお嬢様!」 「本気?」 「もちろん、貴族のお嬢様の座を奪われて怒っているんだろ? 母がしたことは確かに最低さ、だからどうしようが好きにしたって良いから、ねっ!?」 いい考えだろ、と早口で捲し立てる女。 アンは一切表情を変えずにロニーを呼んだ。 「それ、取って来て貰えます?」 「え……ああ、この白い布に包まれた物ですね」 横に置くと金属がぶつかった音がする。 女はまだ「絶対それが良い」だのと宣っていたが、無視をしながら布を剥ぐ。 包まれた中身は先の鋭利な両刃のナイフと片手斧。 「ずっと前に用意していたの」 「やだ、やだやだやだ!」 何をする気だと聞きたくもない。明白なのだから。 しかしアンは未だ声を無視したままナイフをまずは手に取った。 そしてやっと自分の立場に理解が追いついた女が叫んだ台詞、それがアンの動きを止めるのだ。 「あんたも早く止めなさいよ、首謀者のくせにっ、メイジーのことだってあんたが……っ!!」 「は、お姉様のこと? 何を言って……」 それは一瞬の出来事だった。 持っていたナイフが女の胸に突き刺さっているのだから。 「え……」 アンが刺したのではない。刺そうとしたそれは奪われたのだ。 ゆっくり横を見上げると。長い溜息の後、躊躇なく抜かれたそこから吹き出る鮮やかな赤を共に浴びながら。 立ち上がり見下ろすその表情が蜜蝋の明かりに照らされていた。 「この、お喋り」
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