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「……なんて素晴らしい物語かしら。連載一回目のこの始まりから、まさに私の言いたいことそのものだわ!」
扇情的なゴシップ満載の大衆新聞。
その隅に、ロナルドという男性名で連載されている物語を、繰り返し読んではブラウンの瞳を輝かせる。
隠れて買い求め積み重なったそれは、少女の唯一の宝物であり、家にある読破した様々な本よりも胸が踊った。
内容は重苦しいものの、主人公である女の心理描写は現実的で。
椅子に座ったまま少女は、抑えきれないその感銘と衝撃を、控えめに足を踏み鳴らし床へ逃がすほどだ。
「絶対、絶対、落ち着きのある風貌で知識豊富な優しい物言いの紳士ね。いえ、もしかしたらこの方、実は女性で男性主義のこの社会で世の女性に立ち上がれと訴えかけているのかも!」
もはや執筆をした、顔も年も知らぬ作者の人格にまで思い馳せるようになるまでには、愛好者なのである。
そんな十五歳の少女が、今日こそは! と験担ぎを込めてその宝物を抱き、力強い足取りで居間に到着するやいなや、
「お姉様、私もこの糸から。自由を手にするべく家を出て、町を出て働きますわ!」
「また、それはいけないわ」
あっさりと跳ね除けられた。
「なぜならお父様は、男爵家の娘が労働者に下がることなど許さない、と言っていたと何度言わせるの?」
上り詰めた意気は瞬時に萎み、少女はいつものように呆れた声で「はいはい」と酷くつまらなそうな態度を取る。
「毎回お姉様は貴族令嬢としてご立派ですのね」
「あら、そういうあなたは毎回反発ばかりは立派ね。お父様のお言葉は絶対よ」
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