2、牢獄のアンバー・フラン

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「何てことをっ……お母様がお聞きになったらどうするの!」 「その時はまた、気が済むまでヒステリックに泣き喚かせて差し上げたら?」 二人は一歩も引かず、互いの瞳から静かに火花を散らしている。 以前はこの姉妹も仲が良かったのだが、少女が年頃になった辺りから、こうして衝突ばかりを繰り返すようになった。 フレーバーティーと。たいした甘みもない地味な焼き菓子が、申し訳程度に並ぶ冷え切ったティータイムの風景で、この家の困窮さが伺えた。 ここはフラン男爵家の別邸、つまりは離れに位置するゲストハウスだった建物。 目先の本邸は、大きくこだわりのある様式で華奢な細工が施されてあるが、シンプルなここへは家長である少女たちの父により追いやられ、使用人は極最小限に押さえられている。 そのため行き届かないことがあるのは当然に育った。 何せ少女曰くここは牢獄なのだから。 「アンバー、言葉遣いには気をつけなさい。レデイとしての自覚はないの? お父様にお叱りを受けるわよ」 またもやいつもの小言に少女、アンバー・フランは、いつまでも白けた表情を浮かべいている。 (お父様、お父様って。私がお叱りとやらを受けたところなど見たことがあるっていうの?) そもそも少女が家を出たい理由はこの不気味な家族、特に父親にある。 フラン男爵家は上流階級、貴族といっても五等爵では下位の田舎貴族。 原因の父親の領地経営はおざなりで、曽祖父の功績で与えられた土地は年々切り崩し売られ、過去の栄光等は見る影もない。 そんな穀潰しで、無能、くそったれで無責任。
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