15、タンジーを編む (終章)

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主が居なくなった部屋で器用に意識を切り替え、ロニーは静かに腕を捲り始めたが、アンは無表情のまま倒れた女を見下ろしている。 「アン、どうかしました?」 「ロニーさん。このドレスは脱がせましょう」 「……確かに、力の抜けた人間を運ぶには少しでも軽くした方が良いですね」 「それもあります。ですが当然のように腕を通されたこれは、姉のものですから。これ以上穢されたくはありません」 どのような感情なのだろうか。 怒りが一瞬で燃え上がってしまったのか、呆れてしまった故の沈黙なのか、また悲しみに暮れているのか。その無表情からは汲み取れない。 代わりにロニーは「別の物を」と自分の外出着を取りに部屋を出て行った。 「……ねえ、何処の馬の骨かも知れない品性下劣の浅ましい女が、気軽に着ていて良い物ではないのよ」 仰向けの体を横にし、背中のジッパーを下げて肩から剥ぎ、腕を持ち上げ袖を抜く。 反対側に転がし繰り返せば、簡単に上半身が露になった。 そこにロニーが戻って来て、今度は二人で脱がせてから取り急ぎ持ってきた軽くて地味なルームドレスを着せる。 「ではロニーさん、両脇から肩を組み運びましょう。それと誰に話しかけられても全て私に任せて下さい」 互いに目配せして、少しよろけながら立ち上がると、 「そうですね、アンは出任せがすらすらと出ますから」 「仕方ありません。貴族とは様々な仮面を使い分け、嘘が上手くならなければいけませんでしたから」 そう小さく苦笑する。 「ええ、しかし……それは貴族の方々だけではないのかもしれませんよ」 部屋を出て、窓もなく粗末な明かりが不安そうに灯る薄暗い方へ歩くと、突き当たりに扉がある。 その先には使用人だけが使う飾り気のない階段が続いていた。 二人はそこを降りて地下の開かずの間、即ち捕縛用に作られた部屋へと向かおうとしていたのだ。 一歩一歩、慎重に進み、短い吐息と足音だけが木霊して。 かね折れ階段の屈折部、小さな踊り場にやっと差し掛かったところで、背後から唸るような声が投げかけられた。 「お前たち、何をしているんだい……」
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