15、タンジーを編む (終章)

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ゆっくり振り向くと、メイド長がこちらを見下ろしている。 力なく意識を失った女をその場に下ろし、アンが何食わぬ表情で告げた。 「私の友人が急に会いに来てくれたのです。クレアからも聞き及んでいらしたでしょうが、何せ病弱なため気分が悪くなってしまったものですから……私の部屋へ寝かせようと」 確かにクレアからは聞いている。 アンは病気の友人のために給金を上げたいのだと。 しかしそんなことは信じていない。 何故ならこの女は身分を偽っているのだから。 琥珀の付いた指輪、その内側に彫られた名がアンの正体。 それにどうだ、友人と宣うぐったりとした女は、地味な装いのわりに派手で品のない靴や指輪が光っているではないか。 「アン、前に言ったね」 「はいメイド長。お嬢様を巻き込むな、という約束のお話ですね」 「ああ、そうだ」 まるで刺すような視線を寄越されたアンが、静かに笑う。 「お嬢様は只今、本家であらせられるケリー伯爵家のタウンハウスへと向かう馬車の中。どう巻き込むと言うのです?」 互いは逸らすことなくただ向き合っていた。 だがメイド長はこれ以上訴えることが出来ない。 何故なら、アンが再び貴族に戻るため我作していることなのであれば、それはもう貴族間の問題だったからだ。 「その後……この屋敷でまだメイドとして働いていたその時は。覚悟するんだね」 その捨て台詞に、 「承知致しました、メイド長」 深く頭を下げるアン。 その姿に鼻を鳴らして、何事もなかったかのように階段を戻っていく。 「アン、行きましょう」 静かに窺うロニーの声に、アンはほんの少し唇を震わせながら胸中で、「申し訳ありません」と呟きまた女を担ぎ降りて行った。 「…………」 暫し沈黙が続き、最後まで降りるとその先は壁で通路が二手に分かれている。 どんどんと薄暗い方へ。 息が上がりながら古ぼけた扉、予め預かっていた鍵を差し回せばそこは何もないただの空間であった。 二人はやっとの思いで女を降ろし、袖で汗を拭い、むき出しの柱にその体を隠していた縄で固定する。 「それでは互いに仕事へ戻りましょう」 「はい、また夜に」 頷き、再び鍵を掛けるとそれぞれ戻った。 どうせ意識を取り戻したところで、乗り物酔い、または悪酔いの症状のままだ。 (あの女には聞きたいことが沢山あるもの。きちんとした状態でなくちゃね) 白々しく通常業務をこなしていた。
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