6、天使の定めるドレスコード

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何だか仕事がスムーズである。 それはメイド長が朝でのことを警戒して、アンの仕事振りを監視していることに集中しているためだ。 くだらない言いがかりを付けてこない代わりに視線が煩い。 そんな空気の中で、アンは完璧に仕事をこなしていた。 普段ならば、期待されれば更に完璧を求められるので、人目があるところでは半分ほどの力を出し、一人になるとさっさとこなして惚けているのだ。 伊達に困窮を極めた貴族令嬢だったわけではない。 追いやられた別邸で、最低限にも満たないメイドたちの仕事を手伝っていたのだから。 (お姉様は……はしたない、矜恃はないのか、なんて言って嘆いているだけだったけれど) 感傷的な微笑みで一日が終わろうという時に、眼前のミリーがベッドの上でかしこまって座っていた。 「約束、説明」 短い単語が「早く」と促していることが分かる。 アンは素直にその横に腰を下ろして「長くなるわ」 と前置きをしながら、ある程度のことを説明すれば……。 「だったら、アンはお嬢様なの?」 などと、グズグズと鼻を啜りながら同情の涙を流していた。 「まあ、お嬢様なんて煌びやかなものではないのよ。私は命すら無視されたような存在なのだから」 ミリーはそれを聞いてアンを押し倒した。 それを目で掬うと頬に涙が落ちる。 「私は無視してない」 「うん」 「アンが私の家に生まれてお姉さんだったら良かったのに」 「素敵ね」 「困窮なんだったら家でも良いじゃない」 「そうね」 「こんなに優しいアンを……許せない!」 「ありがとう」 「何笑ってるの! 私は怒ってるんだから!」 「分かっているわ」 嬉しいのよ、微笑むアンがミリーの涙を拭った。 その指で頬を撫で頭を撫で、 「だからソフィアお嬢様に近付きたいの」 自力で這い上がって認められなければならないと思うから。傍に立つには〝ソフィア(彼女)を楽しませる〟という、ドレスコードくらいは守らなければすぐに飽きられるだろう。 「私は生きているわよって。家族、アイツらを震え上がらせたいのよ」 そのために権力が必要なの。 告げる表情があまりにも美しく、ミリーはキュッと唇を結び頷いた。 「私が手伝ってあげる。私にだけ任せておいて」 「ああ……やっぱりミリーしかいないわ」 アンは撫でていた手を寄せてミリーを抱きしめた。 無表情のまま……。
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