王道転校生

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王道転校生

ピピピッ ピピピッ 心地よい春の陽気を妨げるアラーム音 まだ眠い目を擦りゆっくりと起き上がる。 体はまだ睡眠を求めているが冷たい水で顔を洗うと大分マシになった。 朝は食べない派だが昼はお弁当派なので料理をしつつ片手間で制服を着て身だしなみを整える。 軽くぴょんぴょんと跳ねる髪をワックスで撫で付け横に流す。執事科に許された燕尾服風のジャケットを着て姿勢を正す。 鏡に映る俺はどこからどうみてもいいとこに仕える執事______ 「よし、今日も完璧…」 まぁどうせ顔隠しますけど 黒の雑面をつけると俺、霧矢珠羽流の完成。 今日は大事な日。今日で今後平和に学園を過ごせるかが決まると言っても過言ではないと思うと準備にも一際気合いが入る。まぁ準備したところで変わらないものだけどそこは……まぁ……気分? ………うん、何だかいたたまれなくてついいつもより早めに家を出てしまった 教室につくとやはり生徒はまばらでいつもより少ない。 自分の席に向かうと、学校に来ない日もざらにある前の席の友人は珍しく既に登校している 「おはようございます、龍矢。」 「…………ん」 机に突っ伏して寝ている男、和泉龍矢がそのままの状態で反応を返す。 うん、珍しい。いつも無視が基本なのにどうした。 「おや、珍しい。今日はご機嫌よろしいようで。…あぁ、そう言えば今日は転校生が来るらしいですよ。もしかしてあなたも楽しみに?」 「………」 あ、駄目だ。全く興味ないっぽいわ。 まぁいつもならこんなことでめげない珠羽流くんだけど今日は龍矢以外に話したい人もいるし。 小さくため息をついてその場を離れる はずが 「………は?」 どうしてこうなってる?????? グンッ、と後ろに引っ張られる感覚と共にお腹に腕が回される 「え?龍矢?何ですかちょっと…離して…」 「ハァ……黙って抱かれてろ抱き枕」 「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」 タイムタイム、ちょっとお兄さん現状理解できないんだけど??? 既に登校していたクラスメイトの黄色い悲鳴が聞こえる。朝からよくその声出るなー、あ、何人か倒れてる。 今の俺はというとそのまま引き寄せられて龍矢の膝の上に座ってる。 ここはキュンってなって恋の始まり…的なのを期待されそうなのだが俺の所感は『めんどくさい』一択。 うん…現実逃避しても俺は悪くないはずだ。何してくれとんだ和泉さんよ。 「どんな状況ですかこれ……もう、離してください。先約があるので行かないと。」 「アァ?誰だよ」 「京です。」 「チッ……」 お、離してくれた。京の力すげぇな で、その京はというと…… 「おはよぉ!珠羽流、和泉君!(お前何俺の名前出してんだこのまま膝の上に居ろや何下りてんだよ)」 ……可愛い声と裏腹な副音声が聞こえる気がする 「おはようございます。龍矢、ありがとうございます。少し行ってきますね」 「ごめんねぇちょっと珠羽流借りてくよぉ!すぐ返すからね!」 「ハァ………はよ行け」 何だか情緒不安定な龍矢くんに別れを告げそのまま京の席について行く 「で?水臭いじゃん珠羽流〜、和泉君と付き合ってんなら早く言ってよ〜」 「付き合ってません。」 「嘘つけよ朝からイチャついてて言い逃れ出来ると思ってんの?」 「素が出てきてますよ、誰かにバレたらどうするんですか?貴方の猫被り」 「あは、周り見ろよ〜、さっきの和泉君とお前との絡みで全員保健室orトイレだわ」 「うっわマジで誰もいねぇ……」 「お前も素が出てんじゃねぇか」 おっといけない。つい言葉遣いが。 さっきの可愛らしい微笑みはどこへやら、目の前でニヤニヤ悪い顔の柄が悪い男の名は篠原京。いつもは可憐で可愛らしいチワワ(笑)に擬態していて俺の幼なじみ且つBのLを好いている生粋の腐の民。 別に男同士の恋愛に偏見はないし、何ならここに入る時に兄さんにここで無事に生きていけるようにとBL本を読まされた経験があるし。 まぁ要するに自分がそこに関わらなければお好きにどうぞっていう 「てかやっぱ慣れないわ珠羽流のそのお淑やかーな口調?ほら、和泉君も寝てるし素に戻せおらおらおらおら〜」 「あーあーうるっさ!ていうか元々俺基本素でも敬語デフォだからね!?京は幼なじみだからこうってだけで…」 そう、猫を被ってるのは京だけではない。 俺これでも執事科筆頭ですし。いつでもどこでも敬語な訳だけど流石に心の中や親しい人達の前でも気を張っているわけではない。 使い分けるのは面倒だけどずっと表の状態も酷だしね。 俺は出来ることならダラダラしたい派だ。 「はいはい、いつもよりマシになったね。 そんなことより!!今日は王道転校生が来るんだよ!!」 「おぉ自分から振っといた挙句無視、しかも強引に本題に入りやがった。」 まぁこの為に呼ばれたようなもんだし助けてもらったからには聞くけどとりあえず悪態つきつつ突っ込んでおく 「やっぱり今日来る転校生は王道なんだよ!理事長の甥っ子で2年生になって1ヶ月のこの微妙な時期の転校生!」 「甥っ子ぉ?あの人の?」 「やっぱ生徒会や風紀委員会を次々と手玉にとって……あぁ!あのイベント生で見られるってこと!?やばい楽しみすぎる!」 あぁだめだ全然話聞いてくれない 王道転校生なぁ…ベタすぎるストーリーにご都合展開のちょっとおツムと常識足りない感じが俺はあまり好きじゃない。 まぁどっちにしよ……… 「なんと言うか…厄介事に巻き込まれなかったらそれでいいか」 「いや……珠羽流は…無理でしょ」 「何故!?」 「何でも〜?あぁ、あと今日お前食堂で飯食べようね?」 「残念、お弁当があるんだなぁ」 「それは残念、回収済みだわ」 いつの間にか妄想の世界から帰ってきた京にはっきり無理だと言われた。クソが、ついでに朝早く起きて必死に作ったお弁当を取られた挙句食堂行きが決定した。 「……ま、とにかく、お前顔いいし、今まで通り出しゃばらずに頑張ればワンチャン?あー…やっぱ無理だな」 「は?顔……?派手髪でもないんだからこんなどこにでもいる顔目立たないだろ。てか隠してるし……まず主のいない執事なんか相手にもされないでしょ」 至極真っ当な意見を言ったつもりなのに京は呆れ顔で前を向いてしまった。解せない……… まぁその王道転校生?とやらに近づくつもりは毛頭ないし、猫被りはお手の物だからな 気づけばクラスに人が大分揃ってきている為背筋を正し執事モードをオンにして自席に戻る。 大勢の前でボロを出すわけにはいかない、と気を引き締めると同時に教室のドアが開いた。 「オラァ、席つけぇ。ホームルームを始める。」 「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」 「周防先生ーッ!!今日もかっこいい!!」 「抱いてぇぇぇぇぇ!!!!」 あちこちから黄色い声援があがる 一身に受けるはクラス担任の周防涼真先生。見た通りのホスト教師。俺も最初に見た時はまんますぎて思わず感動したよねぇ 「まぁ今日は大した連絡はない。…最後にお前ら、今日は転校生が来ている。」 先生の一言にクラスが浮き足立つ。 可愛い子かイケメンか予想しているようだが残念ながら…いやでもまだ王道転校生と決まった訳ではないし……… 「よし、日向。入ってこい。」 いや名前呼びかよ!?!? 既にホスト教師のお気に入りとか京に何度読まされたか分からないあの王道転校生一択じゃん…… あ、ちなみに心の中はこんだけうるさいけど表面上では無表情保ってるからね。ポーカーフェイスは得意中の得意。ま、顔見えないけど!! 「俺は桜井日向!今日からこのクラスの一員だ!皆よろしくな!!」 入ってきた転校生は黒いもじゃもじゃのマリモ頭に分厚い眼鏡、そして残念ながらウザいタイプの紛れも無い完全な王道転校生。 一部の腐の民を除いてクラスのテンションの下がり方がえげつない。 「何あのマリモ……」 「周防先生に呼び捨てにされるとか何なのアイツ…」 「王道転校生キタァァァァァァ!!」 おーおー、チワワに混じってるぞなんか。 しかし…これは多分王道まっしぐらだなぁ 「静かにしろ!…さて、日向、お前の席は和泉の前だ。ということで今日のホームルームを終わる。」 ホスト教師は早々に教室を去る。 どうやら王道くんは龍矢の前の席らしい。 可哀想に、龍矢は絡まれるんだろうなぁ 「なぁ!お前!!名前はなんて言うんだ!?」 「………」 「おい!返事しろよ!ちゃんと答えなきゃダメなんだぞ!!」 「………」 「なぁってば!!」 お、もう既に絡まれているらしい。 俺は知らぬ存ぜぬで本を取り出し読み始める。 幸い王道くんは龍矢を口説くのに必死だ。 悪いな龍矢……俺の平穏の為に犠牲になってくれ。 王道くんは休み時間や授業中も龍矢に話しかけまくっていたが途中で諦めたらしい。 近くから声が聞こえなくなった。 「おい、…おい、聞こえねぇのかてめぇ」 「んぇ!?……失礼、本に夢中になってしまいました。ありがとうございます、龍矢。」 いつの間にか昼休みになっていたみたいだ。 一瞬で猫を被りにっこりと微笑みかける。 どうにも本を読み始めると夢中になってしまう。情けない声が出かかったが何とか抑えた…と思う。 「そ、そう言えば転校生の……名前何でしたっけ?絡まれてましたが大丈夫でしたか?」 「知らね。…途中で白川が声をかけてそっち行った。」 …いつの間にか爽やかくんを手懐けたらしい。 王道展開なら一匹狼も手懐けるからもしかしたら龍矢も…と思ったけど欠片も興味がないらしい。 「ん、早く飯。」 そ、そうだったぁぁぁぁあ!! お弁当!取られてたんだわ!!! 半年くらい前から昼を食べる気配のない龍矢の分も作ってきて食わせてからなんとか胃袋だけはガッチリ掴んだ結果、ここ最近は龍矢の分のお弁当も俺が作ってきている。 俺の弁当取られたってことは龍矢の分もないわけで……… 「申し訳ありません………京に、取られました……」 「あァ?あいつ……」 「仕方ありません…食堂に行きましょう。」 「はぁ?誰があんなところ…」 「………ついてきてくださったら今日の夕食何でもお好きなのお作りしますよ。」 「チッ……」 何だかんだ危険地帯に付いてきてくれる龍矢、チョロ……ん"んっ、良い奴すぎないか? 夕飯で釣れるなんてお母さん心配…… まぁ1人で食堂とか絶対無理だったから助かった訳で、龍矢の後ろを歩きつつ俺らは食堂へ向かった。
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