王道転校生

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無駄にデカい校内の中で理事長室は最上階に君臨している。 エレベーターを下りまっすぐ続く廊下を進むと目の前にこれまた無駄に豪華な扉と『理事長室』の看板 「はっ…無駄に金掛けてんなぁ……」 思わず呟くがここは一般生徒は決して立ち入れない最上階。まず聞かれることはない。 正直に言おう、マジで入りたくない。だが入るしかない。 ふぅ、と息をつき意を決して扉を叩く。 「入っていいよ」 中からの声に一息つき、扉を開ける。 「お呼びと伺いました。霧矢すば」 「すーくーーーーーーーーんっっ!!!」 軽く頭を下げ一応名前くらいは、と喋りだした途端、30代前半の男に思い切り抱きつかれる 「あぁ!久しぶりのすーくん!!いつでも来ていいって言ったのに入学以来1回も来てくれないんだから!ほらほら顔見せて!うんうん、相変わらず可愛いなぁ!」 「………お戯れを、理事長。」 「理事長なんてそんな他人行儀な!口調もそんな畏まらなくていいんだよ?」 いいんだよ?とか言っときながら有無を言わせない圧を感じる。 「はぁ……お久しぶりです、優さん。」 目の前できゃっきゃしてるのは理事長であり父の親友の霧崎 優さん。 小さい頃からお世話になっていて偽名での入学にも力を貸してもらったのだが、いつまでも俺の事を子どもだと思ってるのか会う度こんな反応で正直困る。 「それで、何の用ですか?ここまで呼び出すんですから相当な用なんですよね?」 「もう、合理的というか冷たいなぁ〜、隼人に似ちゃったのかなぁ?」 「人の息子に酷い言い草だな。俺に対しても文句あるのか?」 後ろから聞きなれた美低音が聞こえ思わず振り返る 「と、父さん……?何でここに……」 後ろにいたのは紛れもない 俺の父親、朝比奈家当主にして朝比奈グループの総裁を務める、朝比奈 隼人。本人だ。 とっくに40超えてるくせに老いや衰えを感じさせない若々しい姿は数年前に見た父の姿と変わらず、優さんと並ぶとマジで歳が分からない。 しかし今父はイギリスにいるはずだし日本に帰ってきたなら会社か本家にいるはず。どうして学園の理事長室にいるのか…… 「息子が男子校に入学したと聞いたからな。 …しかも執事として。」 久しぶりに真正面から感じる父の圧に冷や汗が垂れる 父にバレないわけが無いとは思っていたがまさかわざわざ帰国してくるとは。 朝比奈家の隠された次男がよりによって執事としてとは許されるはずがない。しかも当主に無許可で。 良くて退学、最悪勘当も有り得るかもしれない。 「……如何なる、処罰も…受け入れます。全て私の独断と我儘です。」 「はぁ……お前なりに兄の役に立つにはと考えたのだろう。お前は昔から統括執事に懐いていたしな。」 覚悟しながら父の言葉を待つ。 どんなに怒られるだろうと思っていたら、溜息をつき呆れつつも頭を撫でられる。 「……え?」 「へぇ、君のことだから退学にさせるかと思ったけど……君も中々親馬鹿だねぇ」 ま、こんなに可愛いもんねぇ、と理事長が笑う。 父に特段厳しくされたことはないが逆に甘やかしてもらったこともない。そもそも、幼い頃から兄が親代わりだったから。 親馬鹿?可愛い?いやそんな人じゃないはずだ。何でこんなに優しいのか分からない。 「……親馬鹿で悪かったな。久しぶりに息子に会えて…嬉しいに決まってるだろ。それに、息子が…珠羽流が決めたことに反対するつもりはない。」 「父、さん…」 「珠羽流、お前のやりたいようにしていい。」 その後、ほんの少しの間だけど父さんと色々な他愛もない話をした。 学園のこと、家でのこと…… 「兄が随分お前を過保護に囲っているが…大丈夫か?もし嫌ならいつでも言いなさい。すぐにやめさせよう。」 「大丈夫。兄さんは俺を守る為にやってくれてるし……俺の存在については皆が上手くやってくれてるから。」 俺の存在は朝比奈家の中で秘匿にされている。 過保護な兄さんが俺を世間に一切出さなかった為未だに朝比奈の次男は幻扱いだ。 珠のように扱われ囲われてるだとか不出来な息子を世間から隠しているだとか、色々と噂はあるけれどまぁ元々面倒なことは嫌いだし、煩わしい社交やお見合いをしなくていいから俺的にはそこまで悪くはないんだよな。 「そうか……、引き止めて悪かったな。疲れてるだろう、もう戻りなさい。」 「はい、…ありがとう父さん。では理事長、失礼します。」 「はぁい、すーくん元気でねぇ〜、また遊びにおいで」 父さんもやはり忙しい中わざわざ来てくれたようでもう帰るらしい。 しかし先に出るように言われたということはまだ優さんと話すことがあるんだろう。 大人しく退室すると思わず息をついてしまう 本当に今日は色々なことがあった、ありすぎた。 「あ、」 例の甥っ子のこと聞こうと思ってたのに忘れてた。 まさか父さんいると思わなかったしなぁ…… 「まぁいっか」
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