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「お邪魔します……あれ、あんな建物ありましたっけ?」
「無かったですよ。これから披露宴ですし」
それとなく、周りを見渡す世夏。宴と言う割には自分の他に人はいない。
「宴なら酒と料理を持ってこんか」
「やれやれ。肆、この図々しい客人を持っていきなさい」
「承知した」
主の命を受けて、従鬼が二人の前に現れる。いつか見た、老人の姿をした妖だ。
「手を離すなよ、世夏」
「名前覚えて……うわ!」
胡仰藍の四番目の従鬼は、二人の手を取ると屋敷の方まで引いていく。その速度は目を見張るもので、一見すると水平に飛ばされたと誤解してもおかしくはない。
「そうだ……肆の送迎はこんな感じだったんだ」
「それより、この扉の裏にご馳走は待っていると思うか?」
師匠にとって重要なのは飲食の二文字だけらしい。嗅覚から何かを感じ取れないか、しきりに匂いを探しているが、年相応と言うか外見相応の振る舞いをしているのは中々微笑ましい。
「今開けますよ」
一歩遅れて胡仰藍と肆が後ろから現れる。正面の扉を開くと、数人の術士がこちらを見る。胡仰藍は門下の視線を意に介する事もなく、真ん中へと歩を進める。その途中には、師匠の目的の物もあった。
「寿司があるぞ! 玉子とイクラと数の子はやろう」
「師匠、こう言うのは人の話が終わるまで食べちゃダメだ! あと卵を避けるな!」
てっきり胡仰藍しか居ないと思っていた世夏は、悪目立ちを避ける為師匠を抱えて制止する。
「今日はお越し頂き感謝申し上げます。前々からお話ししていた通り、我々破術一門は他の街の呪具を仕入れる為、独自のルートを開拓する」
「胡仰藍さんって呪術士の当主だよな。なんか、商売人みたいな事言ってるな」
胡仰藍の話が始まり、世夏はこっそり師匠に耳打ちする。
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