3/3
前へ
/12ページ
次へ
 毎年、札幌円山球場で行われる秋の高校野球全道大会決勝戦。  遠軽青凌高校対北潮高校の一戦は、五対三、先攻の遠軽青凌二点リードのまま、九回の裏、北潮高校の攻撃を迎えていた。  オホーツク鉄道の本社は、JR遠軽駅の敷地内にひっそりちんまりと存在している。オラが町の高校の決勝戦とあって、遠軽町では駅駐車場に大画面を用意してパブリックビューイングを開催した。俺もオホーツク鉄道のPRイベントを兼ねて遠軽に出張し、大画面を見渡す地面の上に座って、試合のゆくえを前脚に汗を滲ませながら見守っていた。  佐竹さん家のご主人による野球部潰してやる騒動は、一度は家を出る決意しながら自宅に戻った奥さんの必死の抵抗により失敗に終わった。有閑マダム連合の情報によると、出刃包丁まで出て来たそうだから、文字通り命懸けの説得――否、脅迫であったらしい。  遠軽青凌野球部は多額の損害賠償を請求されることも、活動休止に追い込まれることもなく全道大会を勝ち進み、今、春の甲子園をかけた決勝の舞台にいる。  九回裏・二死一塁。北潮高校の七番打者の打ち上げた打球は、遠軽から遠く離れた円山の青空に高々と舞い上がった。  絶妙のカメラワークが白球を追い駆ける。なかなかよい角度で上がったように見えたが、打球はフェンスの手前で明らかに失速した。右翼を守る遠軽青凌の選手が大きく手を上げて、捕球体勢に入っている。    ――ライトフライ!ライトの佐藤が手を上げて、ボールが落ちてくる。試合終了!北海道立遠軽青凌高校、初の全道制覇!来春の選抜出場に大きく近づきました!  メガホン片手に試合を見守っていた町民達から歓声が上がる。マウンド上で輪になった歓喜の向こうのベンチには、少年がこの大会でつけるはずだった背番号十五のユニフォームが掲げられていた。  ――見て見て、駅長!俺、背番号もらったよ!  遠軽町のシンボル・願望岩の向こうから風が吹き抜ける。その風と一緒に、あの日の少年の明るい声が聞こえてきたような気がした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加