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 オホーツク鉄道は北海道紋別市と遠軽町を結ぶ第三セクターローカル鉄道である。  前身はJR北海道の名寄本線であり、遠軽町で石北本線と分離して紋別市を経由しオホーツク海を眺めた後、名寄市で宗谷本線と合流していたのだが、本線なのに平成の時代に廃線となって、遠軽・紋別間のみが第三セクター化されてかろうじて生き残ったという過去がある。  遠軽・中湧別・紋別周辺に市街地があるものの、第三セクター化された今なお、日本全国の他のローカル地方鉄道同様、経営状態は思わしくない。  そんなオホーツク鉄道の中間地点、ホタテとチューリップの街・湧別町に中湧別駅はある。  午前八時十一分、上りの遠軽行が発車してしばらくすると中湧別駅に静寂が訪れる。  オホーツク鉄道沿線には遠軽青凌高校、湧別北里高校、紋別高校と三つの高校がある為、朝の通学時間帯だけは唯一、それなりに混みあう。とはいえ、少子高齢化の大津波は海があろうとなかろうと平等にやってくる。スマホ片手に毎日下りたり乗ったり喋ったり食べたり泣いたりする学生服の集団の数は、ここ数年で約三分の二に減った。  たった今発車した八時十一分発の上り二両編成気動車が、この中湧別駅を発着する唯一の複数編成の列車だ。ホームで発車の列車を見送って、俺は改札口から駅舎内へと戻る。国鉄時代に建てられたまま一度も建て替えられてない駅舎は、かつては名寄本線と湧網線と名寄本線湧別支線と三つの分岐駅であり、駅事字務所も保安施設も国鉄職員の為の宿舎もあったと聞いている。  今ではすべての施設が取り壊され、待合室だけの駅舎に常駐の駅員はいない。改札口はあっても改札はなく、切符も駅弁も売ってはいないが、それを不便と感じる人間もいない。  人間が誰もいない駅舎とは名ばかりの待合室の大きな鏡(寄贈・湧北高校卒業生一同)に、白い毛並みの俺の姿が映る。三角形の耳、赤茶色の鼻ときりりと巻いた巻尾。某携帯会社のCMで一躍有名となった北海道犬(別名アイヌ犬)は、和人が蝦夷地を開拓に訪れる前からこの土地で暮していた。  寝床と定めた古びた毛布の上で丸くなり、俺は目を閉じる。どうせこの次の列車は午前十一時台までやって来ないので、職務放棄を誰かに見とがめられることはない。  うつらうつらとしながらふと見上げた視線の先、かつては歴代駅長の写真でも飾ってあったのだろう空間に、無人の駅舎に似合わぬなかなか見事な墨書入りの額がある。  ――駅長犬シロ(寄贈・遠軽青凌高校書道部一同)  そう、俺の名はシロ。――この中湧別駅の駅長犬である。
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