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プロローグ
真っ暗なリビングで男はその家の主人と対峙した。深夜2時を少し回った時間のことだった。二人は目を合わせたまま、動こうとはしない。時計の針の音がやけに大きく聞こえた。大きな窓から入っていた月光が厚い雲に遮られ、更に闇は深くなった。
「何を……しているんだ?」
主人が訊く。その声は上ずっていた。
男は何も言えなかった。男は黒いパーカーのフードを深く被り、顔にはマスク。左手に持ったスマホの明かりを頼りに金目のものがありそうな引き出しを開けて物色中。言い逃れができる状況にない。
「泥棒だーーーー!!!!」
主人は大声で叫ぶ。男は咄嗟に引き出しの上に置かれていた何かしらの物体を手に取り、主人のもとへ駆ける。そして、手に持つ物体を主人の頭めがけて振り下ろす。鈍い音がした。嫌な感触が伝わる。構わずもう一度振り下ろす。もう一度振り下ろす。振り下ろす。何度も何度も振り下ろす。無我夢中で振り下ろす。
ガタッ。
音がした方を振り向く。そこには怯えた顔をした家族が立っていた。奥さんと娘。奥さんは震える手でゴルフクラブを持っている。
男の行動は早かった。突進するかのごとく二人に近づき、主人の返り血がついた物体を振りぬいた。ゴルフクラブで抵抗する間もなく、短い悲鳴を上げ、二人はどさりと倒れる。
家の中から音が消えた。男の耳には自分の鼓動の音と荒い息しか聞こえない。暗い部屋を見渡す。そこには、体温を失いつつある人が3人、血を流して倒れている。
雷鳴が轟いた。男は我に返り、窓の外を見る。雨が降っていた。大雨だ。男は急いで外に出た。走って、走って闇の中に逃げていく。後ろを振り返ることはなかった。
ポケットの中の宝石が揺れていた。
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