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19.先輩のいない日常。
◇
先輩たちが修学旅行に行った。
それもあってか校内は、静まり返ったようになっていた。
「二年生がいないとなんか一気に静かになった感じするよなぁ」
柳木が休み時間にお菓子を食べながら、そんな話を持ち出した。
「三年生は受験とかで忙しいもんね。ちょっとピリピリしてる感じはするけど」
「そうだね。でも、あんまり先輩たちと接点ないよね俺たちって」
体育祭とかでは学年別で対抗するから少し話したけど、上級生ってなんか声かけにくいし。……あ、でも夏樹先輩とかは話しやすいんだよね。
なにが違うんだろう?
「生徒会での接点とかなかったわけ?」
「俺が生徒会に入った頃にはちょうど入れ替わるタイミングだったから顔合わせした程度だったかなぁ」
三年生は受験で忙しくなるから、四月で後輩に引き継がれることになる。
「じゃあ話もそんなにしてないんだ?」
「うん、そうなるね」
ほんとに一瞬顔を合わせたくらい。あとは、今の二年生が引き継いで、そして俺たちが生徒会に入ったのが四月終わり。
──あ、でもそっか。
「生徒会に入ってもうすぐで一年になるのかぁ」
「え、矢野、もうそんなになる?」
「みたいだね。なんか早いなぁ。一年あっという間」
初めは、生徒会に入って後悔したこともあった。俺には向いてないんじゃないかって。失敗したらどうしようって。
そこで先輩たちと出会って。初めはすごく緊張したけど、みんな優しい人たちばかりですぐに馴染むことができた。
女顔を指摘されることはあっても、からかわれることは減って素直にホッとしてる。
「一年大変だった?」
「うーん……大変ってよりおもしろかったかも」
「えっ、生徒会の仕事が楽しい……? 矢野、お前ちょっとずれてねぇ……?」
柳木ってば、ほんっとそういうこと言うから、
「ずれてない! 俺も自分でも意外だったけど、大変よりもおもしろい方が多くて……!」
ムキになって言い返すと、
「生徒会の作業がおもしろいとか、矢野……お前ドMなの?」
顔を青ざめる柳木。
「ちっ、がうから……!」
ダンっと机を叩いて抗議するが、柳木も鳥羽もケラケラ笑っていた。
あー、もうっ、ほんとにこの二人はからかうことが好きなんだから……
「じゃあもうすぐ先輩たちともお別れだなー」
数秒前まで笑っていた柳木が、お菓子をつまみながら突然そんなことを告げるから、「……え?」思わず気が抜ける。
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