19.先輩のいない日常。

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 機械の向こう側から先輩が微かに笑った声が聞こえた。  ──先輩の顔、見たい。 「先輩、俺も……」  ──〝生徒会は四月で引き継がれる。だったら二年生もあと少しで終わり〟  鳥羽の言葉を聞いて俺は、 〝寂しくなる〟と思ってしまった。  そして今も、先輩の顔を見たいと思った。  今までずっと気づかなかった。いや、気づかないフリをしていたのかもしれない。気づいてしまったら〝今の関係〟を壊してしまうことになるかもしれないと思ったからだ。  だけど、もう俺は気づいてしまった。この感情の正体に。 「俺も先輩に会いたいです」  気づいてしまったら嘘をつくことはできなかった。 『矢野くんがそんなこと言ってくれるの珍しいね。嬉しい』  先輩の声はいつだって優しい。  その優しい声で何度でも名前を呼んでほしくなる。 「先輩」  スマホを持つ手に力が入る。 『ん?』 「修学旅行が終わったら話したいことがあります」  その瞬間、廊下の窓からふわりと冷たい風が入り込み俺の頬を撫でた。 『……うん、分かった』  機械の向こう側から先輩の真剣な声が聞こえた。  その直後、チャイムが鳴ったので。 「あ、じゃあ、そういうことで、修学旅行楽しんでください!」 『矢野くんも授業頑張ってね』  スマホを切ると、教室に戻った。 「先輩何だって?」  すぐに鳥羽に聞かれる。 「お土産何がいいって聞かれただけ」 「ふーん」 「何?」 「べつに何も」  何もって顔してないけど、聞かれたくないから今話した内容は内緒にしておこう。
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