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プロローグ
たとえばだ。
もし俺がこの世界からいなくなったとしても誰も困らないだろう。
いつものように日は昇り、人々は目覚めるとともに学校や会社に向かい、駅に吸い込まれるや否や時間通りに電車が滑り込んでくる。そして、いつもと何も変わらない営みが粛々と繰り広げられていく。
俺がいようといまいと、それらの流れを堰き止めることはできないし、さざ波を立てることすらできない。濁流に飲み込まれ、くるくると舞い続けるだけの木の葉。あるいは呼吸をしているだけの生ける屍。
何の価値もない、無意味な存在――それが俺。
誤解のないように付け加えておくが、俺は感別に傷に浸っているわけでもなければ自暴自棄になっているわけでもない。この数か月、俺は自分の価値や存在意義について、来る日も来る日も自問を重ね続けてきた。
そしてありとあらゆる可能性を模索した結果、導き出した答えがそれなのだ。決して感情的になっているのではない。あくまで冷静に思考し続けた結果なのだ。
そうでなければ、こんな惨めなことになっているはずがない。
大学生にもなって自分の部屋から出られないなんてこと、あるはずがないんだ―――――
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