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その先
「あ、読んだ?どうどう?」
「19の息子に自分が書いた甘酸っぱい青春ラブストーリー読ませる母親がどこにいんだよ。」
「え、甘酸っぱかった?!青春ラブストーリーになってた?!やった!」
「やった!じゃねんだわ。」
夕飯の後のデザートに、私が切ったリンゴを頬張りながら笑う。息子の晴太は今年大学生になった。身長は止まったと言っていたが、どこか日に日に大人びて、夫に本当によく似てきた。
「これ応募するとか言ってたけど、マジですんの?」
「マジでしようと思ってたけど、晴太に読んでもらったらどうでもよくなったかも。誰かに読んでほしかっただけかな。」
「紙面に載ったら恥ずかしいから偽名にして出してよ。」
「偽名って!ペンネームとか言い方あるでしょうよ。」
雑誌や新聞でよくある市民投稿欄に、小説のコーナーがあったので出してみようかと思ったのがつい先月。本を読むより映画を観る方が好きだけど、本当にふと、書いてみようかなと思ったのだ。
「これさー」
「お、出たか!感想!待ってました!」
「うるさいなー」晴太はよく笑う子だ。
「これ、母さんの話でしょ?母さんと、お父さんの。」
驚いた。
「…ほう、晴太よ、なぜそう思う?」
「息子のカンかな。」
「興味深いねえ。会ったことはないがしかし!ピンと来ちゃったってこと?」
どちらが言うでもなく2人でふっと隣の部屋を覗き込む。奥に仏壇が置いてある、お父さんの部屋だ。
晴太のカンは当たっていた。陽介と沙羅は、夫と私だ。
夫で晴太の父親の洋一は、晴太が生まれる少し前に亡くなった。事故だった。初めての出産を控えて突然夫を亡くすなんてそんなドラマみたいなことが、本当に起こった。それから晴太を産んでしばらく経つまでのことは、あまり覚えていない。
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