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「…昌大、どうしたの? 喜んでくれないの?」
「いや、もちろん嬉しいよ。おめでとう。家事代行も雇わなくて大丈夫だよ。これからは2人で半分ずつ分担して家事をやろう。」
「うん。ありがとう。」
正直言うと、俺は少し怒っていた。しかし怒鳴り散らすわけにもいかず、無難な返しをしてその場の会話を終えた。まりはその次の月から正社員としえ働き始めた。俺は分担された家事に慣れ、再び日常の幸せを噛み締められるよう努めた。家事経験があったこともあり、すぐに慣れることができたためまりが正社員になった事でそれ以上亀裂が大きくなる事はなく、次の結婚記念日も滞りなく2人で祝う事ができた。しかし問題はまた起きた。3度目の結婚記念日とほぼ同時期に主任に昇格し、部下を持つようになったまりは仕事の話を口にする事が増えていた。
「それでさ、少し前まで私がやっていた業務のマニュアルを渡して読んでおくように指示したのよ。そしたらバージョンが変わっててわからないとかで、結局1から説明する羽目になっちゃって。まったく、最近の若い子はダメね。」
「そうだね。でもまりも部下を持ったんだ。しっかり育ててあげないと。」
「それはわかってるけど、なんというか… 成長が見込めないのよね。向上心がないというか…」
「そうなんだ」
まりの部下を否定するような愚痴はまりの仕事振りが認められるにつれ少しずつ増えていった。平穏な日常が、気分が悪くなるような話題で埋め尽くされていくのは正直苦痛だったが、まりの今の態度はこれまで満足に認められてこなかった反動だと割り切って耐えていたが、徐々に余裕はなくなり遂には結婚記念日を祝おうという気合いは無くなっていた。そしてまりの主任昇格から約1年が経った頃、俺にある出会いがあった。
…続く。
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