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「ただいま」
「おかえり昌大。ねぇ聞いてよ。」
帰宅するやいなや、まりがどたばたと玄関まで走ってきてそう言った。嬉しそうな顔をしていた。
「どうしたの。なんだか嬉しそうだね。」
「今日ね、新商品のデザイン案について意見を求められたんだけど、私の意見が褒められたの。」
嬉しそうに話すまりを見ていてこちらも嬉しくなった。
「良かったね。」
「それで、今日みたいなことが続けば正社員になれるかもだって。」
それは俺にとっても良い知らせだった。まりが新卒での就職に失敗したのは知っている。その後も正社員の経験はなく、その事で劣等感を抱いていたのも気づいていた。愛する妻の悩みが解消できれば俺も嬉しい。どうか現実の事になってくれ。そう願ったためか、俺はえらく現実的な返しをしていた。
「それは良かったね。それが現実味を帯びてきたら俺達の生活サイクルについて話し合わないとね。」
「そうだね。」
もう少し褒めて欲しかったのか、まりは少ししゅんとした顔をした。しかし俺はまりの話が現実的になる事を願っていた。そうなった時は今のようにまりにばかり家事の負担をかけているわけにはいかない。生活サイクルの見直しが必要だ。俺はまりが正社員になろうとした時、少しでも早くその生活に対応できるようにはしたいが、俺の方も準備がいる。生活サイクルの見直しをしようという取り決めはしっかり交わしておく必要があったのだ。
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