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しかしそれからしばらくは以前と同じ平穏な日常が続いた。朝と夜に愛するまりの手料理を食べ、結婚記念日には互いにプレゼントをして祝う。この年はまりから3枚組のハンカチをもらった。こちらも毎日使えるプレゼントで嬉しかった。しかし更に1年が過ぎた頃、俺達夫婦の関係は大きく変わろうとしていた。俺が仕事から帰ってすぐにまりが興奮したような声で話しかけてきたのだ。目は輝いている。嬉しいことがあったのだろう。
「ただいま」
「おかえり昌大! これ見て!」
まりは1枚の書類を俺に見せた。それは正社員用の契約書だった。まりが優秀なのは知っている。正社員になる事は驚くようか事じゃない。だがその契約書に既にまりのサインがしてあった事には驚かざるを得なかった。
「正社員用の雇用契約書? 正社員になるの?」
「うん! 少し前から話は出てたんだけど、ついに正式に決まったの! 4時間勤務じゃいられないから今ほど家事はできないけど、経済的にはもっと楽になるし家事代行とか雇おうよ。」
「そっか。」
すごく冷たい返事をした。笑顔のひとつも作ることができなかった。当然だ。まりが正社員になれば夫婦の生活が変わる。新しい生活サイクルに順応するためには時間が必要だ。なのに少し前から出ていた話を正式に決まって初めて俺に話したのだから。
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